
地域とつながる特徴的なビルとは? 田町・芝浦の「SHIBAURA HOUSE」をのぞいてみた
田町駅芝浦口から運河エリアに向かって10分弱歩くと、平日はビジネスマンなどでにぎわう芝浦三丁目に、特徴的な建物があります。
「SHIBAURA HOUSE」。ガラスを多用しながらメリハリのある外観のこの建物は、どのような想いで建てられたのでしょうか。そして、この建物ではどのような活動が行われているのでしょうか。建物で地域や世界各地とつながる取り組みを取材しました。
老舗製版会社が心機一転! 新社屋を建てるまで
芝浦三丁目にある特徴的な建物「SHIBAURA HOUSE」。
そもそもここは、どんな場所なのでしょうか? ギャラリーにも見えますが……。
結論からいえば、こちらは「株式会社SHIBAURA HOUSE」という会社の社屋になります。
まずはどのような会社なのか、そしてなぜこのような社屋を建てたのか、「株式会社SHIBAURA HOUSE」の佐脇さまにお話をうかがいました。
佐脇さまは、横浜市中区黄金町でアートによるまちの再生に取組んだ、「黄金町エリアマネジメントセンター」の活動に携わった経験があり、2020年から株式会社SHIBAURA HOUSEで働かれています。
佐脇さま「2011年に誕生したこの建物ですが、現SHIBAURA HOUSE代表の伊東のもとで、活動やプロジェクトの展開が進められてきました」
株式会社SHIBAURA HOUSEは、元々「広告製版社」という名前の会社でした。
広告製版社の創業は1952年。創業当時から芝浦三丁目のこの場所に社屋を構えており、旧社屋の1階には印刷機が並んでいたといいます。
社名にもある「製版」とは何かについて簡単に説明すると、以前は広告物などを大量に印刷する場合、データではなく物理的な「版(紙に押し付ける大きなハンコのようなもの)」を作成していました。
しかし2000年代に入ると、リーマンショックなど景気の変動による広告需要の不安定化や製版のデジタル化などによって、社内構造を大きく転換する必要に迫られることになりました。
旧社屋からの建て替えプロジェクトには、人材や設備面の転換に加えて、もう一つ重要な要素がありました。それが地域とつながっていくための拠点という側面です。
元々、周辺の商店会や町内会の活動を手伝うなど、地域との方々との関係を築くことに積極的な社風だったといいます。その流れから、新社屋は地域の方々が利用できる、地域社会に求められる空間が目指されました。
佐脇さま「『他ではできないことをやる』という考え方が建物にも反映される形になっていると思います」
社屋の建て替えにあたり、伊東さんは海外を含めた建築を多数視察してアイデアを蓄積。建築家の妹島和世さん(※)に設計を依頼することを決断します。
※1956年生まれ・茨城県出身の建築家。建築家ユニット「SANAA」として、「金沢21世紀美術館」などを手がける。
そうして誕生したのが、この「SHIBAURA HOUSE」です。
フロア数としては5階(中間階除く)になっていますが、天井の高さとフロア間がシームレスにつながった空間設計によって、屋内にいても非常に開放感のある建物に仕上がっています。
「SHIBAURA HOUSE」とはどんな場所?
お話を伺うにあたり、SHIBAURA HOUSEの各フロアを見学させていただきました。
まず目を引くのが、天井が高く広々とした1階。こちらは普段からコミュニティスペースとして誰でも利用することができます。
カフェスペースとして軽食や飲み物も販売されているため、ちょっと昼食を摂ったり、コーヒーをお供にお仕事をすることもできます。11~15時のランチタイムには、おにぎりや味噌汁といった和食メニューもあるのは嬉しいところ。
目の前の通りを行き交う人々を眺めながら、天気のいい日は大きなガラスから差し込む陽の光を感じられる空間は、気分転換や休憩に最適です。
小さなお子さんのためのプレイスペースもあり、お子さん連れでも気軽に訪れられるようになっています。
こちらはイベントスペースとして使うこともでき、キッチンを活用してパーティーなども可能だそう。
階段を上がると、1階全体を見下ろすことができます。
SHIBAURA HOUSEの業務スペースやコワーキングスペースなどがある中2階に加え、テラスつきのもう一つのオープンスペースがある2階もあります。
3階はオフィスで、4階にはなんと宿泊スペースが!
こちらはアート作品を展示することもできるようになっており、それを生かした滞在型アートイベントの際に宿泊できる場所とのことです。
そして5階は、イベントなどに使える多目的空間。
中5階としてテラスもある開放感あふれる空間で、プレゼンテーションや映画の投影もできる大きな壁面を備えています。
著名な建築家が手掛けた建物ということもあり、周辺に住んでいる・働いている方々だけでなく、様々な方々が訪れる場所になっているといいます。
佐脇さま「国内外の建築を学んでいる学生さんや、建物で行っているイベントや口コミ経由でこの建物を知った海外の方、そして建築家のファンの方々なども以前から訪れられています」
内部を拝見して気づいたのは、SHIBAURA HOUSEは外から眺めても洗練された建物ですが、曲線的な階段を昇ると開放感のある開けたスペースにたどり着く……など、館内を歩いてみてもワクワクする建物だということ。SHIBAURA HOUSEを訪問される方々が絶えないことも納得です。
建物についてはここまで紹介させていただいた通りですが、この建物を使って、SHIBAURA HOUSEではどのような活動を行っているのでしょうか。
佐脇さま「海外との交流や、デザイン・アートを通じた社会課題へのアプローチに取り組んでいます。具体的には、オランダ大使館との協働事業や台湾との交流事業などを実施しています」
駐日オランダ大使館との連携は社屋建て替えとほぼ同時期から行っており、オランダの文化を日本に伝えるイベントなどが随時行われています。
台湾に関しても、10年以上交流を続けながら、地域コミュニティについて一緒に考えているそうです。
港区との共同事業「水辺のまち サーキュラーLAB.」
数多くの活動をされているSHIBAURA HOUSEですが、いざまちとして気になったのは、港区芝浦港南支所との共同事業「水辺のまち サーキュラーLAB.」です。
佐脇さま「『水辺のまち サーキュラーLAB.』は2021年から活動を開始しました。様々な課題に対して、実験的な取り組みをしてみようということで、『ラボ』と名付けられました」
それでは「水辺のまち サーキュラーLAB.」とは、どんな活動なのでしょうか。
“芝浦港南地区の運河の水質や環境改善に向けた気運を醸成するために、サーキュラー・エコノミーの視点を活用した取組を実施し、環境問題について考えるきっかけを作るとともに、環境に配慮した暮らし方を地域と一緒に考えていきます。”(港区ホームページより)
芝浦の運河は、実は水質汚染や匂いといった問題を抱えています。
これは東京都の下水道の大半が「合流式」といって、雨量が多い場合は汚水と雨水を一緒に放流するため、放流先の運河や湾岸部の水質悪化を招いてしまうような構造のためです。
水辺エリアにお住まいの方々にとっては、身近な問題といえます。
佐脇さま「水質問題は、芝浦港南地区だけで解決できるものではなく、長期的な視点が求められる課題です。そのなかで、地域としてできることを考え、『サーキュラー・エコノミー』の視点を取り入れた活動を展開しています」
サーキュラー・エコノミー(循環経済)とは、従来の大量生産→大量消費→大量廃棄という一方的な流れから脱却し、生産段階から再利用を視野に入れた設計などを取り入れることで経済活動と資源消費量の抑制を両立する仕組みです。
「水辺のまち サーキュラーLAB.」の具体的な活動については、水辺やサーキュラー・エコノミーをテーマとして、「勉強会」と「体験」の2軸で行われているそうです。
取材のタイミング上、2026年度の活動については後日公開ということでしたが、参考までに2025年度の活動の一部をご紹介します。
・水辺の映画館
芝浦港南エリアも子どもたちから募集したアイデアを実現した企画。都立お台場海浜公園にスクリーンを設置し、海辺で映画を鑑賞するイベントです。
夜の水辺を有効活用しながら、開放的な空間に気軽に集まれる取り組みになっています。
・水辺アンサンブル
廃材から楽器を作り、最終的に音楽ライブを行うユニークな取り組みです。サーキュラー・エコノミーを体現するように、参加者が持ち寄った廃材を使ってワークショップで手作りした楽器を使います。集まって練習することで「楽団」としての結束を強めながら、2025年度は、「港区立男女平等参画センターリーブラ」ホールでの公演を成功させました。
・あちこち農園
芝浦港南エリアに緑を増やし、地域の環境について考えるきっかけをつくる活動です。 現在は芝浦公園の一角で、チューリップやハーブなどを地域の方々とともに育てています。 2025年度は、育てたハーブを近隣の飲食店へおすそ分けする取り組みも実現しました。

2025年度の「水辺のまちサーキュラーLAB.」勉強会の風景(株式会社SHIBAURA HOUSE提供)
これらの体験型の活動と並行して、国内外の水辺活用についての勉強会が随時行われています。
国内で取り組みを行っている担当者や、オランダ・アムステルダム市に関わる方々まで、様々な事例を知りながら意見を交わすことができます。
各活動については「水辺のまち サーキュラーLAB.」のホームページで事前に告知があり、Peatixなどを経由して申し込むことができます。
一度は訪れてみたくなる交流拠点
港区など周辺にお住まいであったり在勤・在学の方々にとって、SHIBAURA HOUSEは気軽に訪れることができる場所でありながら、地域や世界とつながれる場所でもあります。
お子さん連れの方にはキッズスペースがあり、近隣で働いている方にとっては作業スペースやひと息つける場所であり、建築・デザインに興味がある方には建物自体が目的地になるSHIBAURA HOUSE。
「水辺のまち サーキュラーLAB.」は、港区の水辺の活性化や水質問題など、身近な問題に関わる活動の場にもなっています。こういった問題に興味があるものの具体的に何をすればいいか分からないという方にとっては、最初の一歩として活動に参加してみる場所になり得ます。
田町駅芝浦口から徒歩約10分という場所にあり、一階はカフェのような気分で訪れられるSHIBAURA HOUSE。
建築物としても素晴らしい建物になっているため、少し中を覗いてみるだけでもおすすめです。
【SHIBAURA HOUSE】
住所:東京都港区芝浦3丁目15-4
時間:(1階カフェ)モーニング営業 8時半~11時、ランチ営業 11~15時ラストオーダー
(フリースペース)11~16時
定休日:土・日曜日
アクセス:JR田町駅「芝浦口」より徒歩10分、地下鉄三田駅「A4出口」より徒歩12分
<夕方以降に館内を見て回れる機会が!>
SHIBAURA HOUSEでは、「東京建築祭2026」に参加。
普段なかなか立ち入れない夕方以降に館内を見学できる特別公開を開催します。
日時:2026年5月23日(土)17~20時(※19時30分最終入場)
参加費:無料


