水辺を知り、有効活用するために――第3回水辺部会リポート
2024年2月19日、港区観光協会の第3回水辺部会として、クルーズ乗船体験が開催されました。この日は、水辺を盛り上げるために熱心に活動や取り組みを続けている各企業や団体から、約25名が参加。
束の間の遊覧を通して、港区の水辺に関して、認識や学びを新たにしたご様子の皆さん。弊社は今回、格別のご配慮で参加させていただき、乗船体験の模様をリポートいたします!
「水辺部会」の役割とは?
観光振興施策とシティプロモーション施策を推進している港区と連携・協力関係にある一般社団法人港区観光協会では、会員企業で構成された3つのテーマ部会を設置しています。
その中の「水辺部会」は、運河や東京湾などの水辺を活性化し、人々に魅力を伝え続けるため、さまざまな取り組みやPR、企画を行っています。現在の「水辺部会」部会長は、株式会社ジールの代表取締役・平野拓身さんが務めています。
今回のクルーズは、ジール社の運河・河川観光船「ルーク」で、JR田町駅付近の船着場より出発。港区や東京都内の運河や海上を巡り、今後有効活用したいスポット、現在進行形でさまざまな取り組みを進めているスポット、また問題解決したいスポットを視察しました。
“海の男”たちのガイドとともにいざ出発!
視察コースに入っている各地のポイントでは、平野さんや、東京ウォータータクシー株式会社COOの木村直樹さんら、運河や水辺をよく知る方々が解説してくれます。
“海の男”たちの巧みな話術のおかげで、参加者は時折笑顔を見せながら興味津々に各所を眺め、乗船体験は和やかに進みます。
出発後、すぐに見えてきたのは、運河に浮かぶ東京ウォータータクシーの船体と、船の発着場を隣接するレストラン「Mi tiempo」。この日は定休日だったため、係留するウォータータクシーの黄色いボディを多数見ることができました。
欄干の奥に見える、オレンジ色の建物が「Mi tiempo」。テラス席にあるドームテントまで、はっきり確認できました。
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テラス席には愛犬も一緒に入れる旨を、木村さんが解説してくれました。これからの桜の季節には、運河の桜並木でお花見しながら、ワンちゃんとティータイムを楽しめます!
【Mi tiempo】
住所:東京都港区芝浦2-2-18
野村不動産株式会社らが開発中の「芝浦プロジェクト」も視察
また、野村不動産株式会社が東日本旅客鉄道株式会社らと共同で開発を進めている、「芝浦プロジェクト」の高層ビルおよび船着場建設予定地も視察。
ツインタワーを形成する予定の高層ビルのうち、2021年より着工している「S棟」を運河から見学。同棟には下層に商業施設、中層にオフィス、上層には日本初進出のラグジュアリーホテル「フェアモント」が入ることが既に発表されています。参加者でもある野村不動産株式会社・曽田朋恵さんが解説陣に加わり、皆さん真剣に聞き入ります。
「芝浦プロジェクト」で掲げられた整備方針の1つは、「芝浦運河の活用・日の出ふ頭と連携した水辺のにぎわい拠点の整備」でした。ゆくゆくは芝浦運河に船着場やテラス、広場等を整備し、憩いの水辺空間を演出します。
船着場が完成すれば、芝浦運河に桟橋が1つ増えることになり、同運河のいっそうの活性化が期待できますね。
【芝浦プロジェクト】
東京都港区芝浦1- 1 -1 ほか
古川に秘められた可能性
新宿御苑が水源の「古川」(港区内では「古川」、渋谷区内では「渋谷川」と呼ばれる)は、童謡・唱歌『春の小川』のモデルになった河川です。
高度経済成長期では、各ビルや建物は運河や水路に背を向けて建設されることが多く、古川沿いも例外ではありませんでした。経済の発展と引き換えに、人々は景観と水辺に親しむ心を失ってしまった感も拭えません。
しかし、近年、東京都は河川の環境整備や水質改善に力を入れています。古川も、水量が増える満潮時に観光資源として利用できないか、検討が進められているのだそう。先日、平野さんに伺った話によると、「二之橋」付近まで出ると、とてもキレイな水辺があるようです。
古川で実感したのは、上空を見上げれば、多くの橋が架かっているということ。それは川や運河ならではの楽しみ方です。きっと晴天時には、明るい陽光と橋による影がいっそうコントラストを増し、探検気分も盛り上がりそうです。
JR高架橋下で発見! 水路に古いタイル張り
古川をJR浜松町駅付近まで進んでいくと、高架橋桁で、歴史を感じさせるタイル張りの護岸に差し掛かりました。
レンガを思わせるタイルと水路の組み合わせは、どこか北海道・小樽の街を連想して趣があります。
地上から見ただけでは、こうした隠れスポットはなかなか発見できないかもしれません。人々がなかなか知りえないスポットは、水路を行くと、東京都内にまだまだ存在しているのです。
まるで松江? 水路に囲まれた浜離宮
続いては、一行は東京湾へ。行く手の右手に見えてきたのは、江戸時代、将軍家の鷹狩場として使われていた浜離宮恩賜庭園。11代将軍徳川家斉の時代には、ほぼ現在の姿の庭園ができていたとされます。
「浜離宮も、ぐるりと水路で囲まれているんです」と参加者に説明してくれた平野さん。「将来的には松江城の遊覧船のように、離宮周辺を一周する観光船ができたらいいと思います」。
それは島根県松江市にある観光遊覧ツアーの1つ、堀川遊覧船の「ぐるっと松江堀川めぐり」のこと。松江城の周囲に巡らされた「堀川」を小船で巡り、天守閣や武家屋敷をゆっくりと眺める人気のコースです。
都心にありながら緑豊かな浜離宮は、城下町の松江とは、また違った趣になるでしょう。実現したら、なんとも素敵ですね!
【浜離宮恩賜庭園】
東京都中央区浜離宮庭園1-1
「
「伊豆・小笠原諸島の玄関口」である竹芝
「ウォーターズ竹芝」は、東日本旅客鉄道株式会社グループが手がけた、劇場やホテルを擁する複合施設。環境再生や環境学習の場として、水辺に「竹芝干潟」を造っており、各種体験講座や釣り教室などを実施。子どもたちにも学びの場を提供しています。
しかし、ウォーターズ竹芝のHPを見る限り、残念ながら同施設の桟橋は、通常は水上バスの運営会社など、一部しか使用できないようです。イベントの際には他社のクルーズ船や屋形船も使えるそうですが、より多くの機会で開放していただき、竹芝の可能性を広げたいと、平野さんは未来を見据えていました。
「竹芝は伊豆・小笠原諸島の玄関口。竹芝を通じて、伊豆諸島とつなげ(て活性化し)たい」。
【ウォーターズ竹芝】
東京都港区海岸1-10-30
生きものたちの住処でもある水辺
水辺に住む動物や生物と出会えるのも、クルーズの魅力の1つ。黒い鳥のオオバンは幾度か登場し、貴重な鳴き声を聞かせてくれました。
水質改善の実験が進められているカニ護岸
港区の運河で、石に囲まれた水たまりのような箇所がいつくか見られます。ここは、東京海洋大学の佐々木剛教授が「水圏環境リテラシー教育」の1つとして、水をキレイにする実験を行っている「カニ護岸」。佐々木教授と株式会社ジールは、「TOKYO Sea School」を共同で開催するなど、海洋教育の連携を図っています。
この護岸ではカニなどの小型生物が生息しやすい工夫を施しており、幅広い運河学習を行っています。ふるさとの水辺で体験することにより、子供たちは地域に愛着を覚え、運河の機能や状況を知り、環境改善の方法や重要性を学び取っていきます。
淡水と海水が入り混じる場所柄のため、カメもいるとのこと。水鳥たちも羽を休めがてら浮かんでおり、水辺は生きものの住処でもあることを実感します。
ユリカモメの巣!? 新港南橋のテトラポッド
「芝浦水再生センター」の近くにある「新港新橋」には、下水処理した水が流れ込む場所があります。周囲にはテトラポッドもあり、ユリカモメが大集合。川面を泳いだり、橋桁に留まったり、数えきれないほどの大所帯が密集しています。
その理由は、この付近で流れ込む水の温度が通常よりも高めのため。餌も多いのでしょうか。渡り鳥のユリカモメは、快適な場所を見つけるのも上手なようです。
残された課題……船を接岸できない浮桟橋
「渚橋」のそばにある浮桟橋は、2009年に建設されて以降、未だに船が係留できない桟橋です。建設当初、地元商店街ら建設推進派と、あまり船が往来してほしくない地元漁業民との間で交渉が難航。結局、桟橋を造ったものの、船を係留できない事態が続いています。
しかし、桟橋を残すためには維持費もかかります。令和5年には、この浮桟橋を区に譲渡し、防災や水辺の賑わいに活用してもらうよう地元から請願が出ましたが、残念ながら議決結果は不採択。各党でも賛成、反対と意見が分かれたようです。
せっかく作った桟橋を利用できないのは、実にもったいないことです。人々を呼び込むためにも、何かの形で利用できないか、どうしたら問題がクリアになるのか……。区や都に関わる1人ひとりが考えるべきテーマと言えるでしょう。
運河クルーズを終えて……学びを今後に生かして
開催されたのは2月某日でしたが、直近で季節外れに暖かい日が数日間続いていたためか、運河沿いには早咲きの桜も。乗船体験も終了が近づいたタイミングで、あでやかな景観を確認できました。
質問タイムでは、「なぜ夜に運河を巡るクルーズは少ないのか?」という声が上がり、平野さんが解説します。「1つは、みんな(お客さま)の希望として、海に出たがる傾向があります。もう1つは、運河にもいいスポットがあることが、あまり知られていないんです」
少なくとも本日の参加者は、運河の魅力を再発見し、堪能したご様子。なお、運河を中心に、ご自身でコースを希望の箇所をまわりたい場合は、東京ウォータータクシーの船をチャーターすることをおすすめされていました。
そういえば先日、木村さんから伺った話の中で、印象的なお話がありました。「オランダでは都市や街をつくるとき、まずは基盤となる水路を引きます。果たして東京でそれができるでしょうか――」。
かつて「水の都」であった東京は、海や運河に面した土地。かつて物流を支えたそれらの水路は貴重な観光資源であると同時に、学びの場でもあり、さまざまな課題を秘めた場所でもあります。
多くの人々が本格的に水辺の活用法と環境保護に取り組み、いっそう活発に水路を行き交うようになれば……。いつの日か、大規模なプロジェクトが生まれる際、新たに水路を引くという選択肢も生まれるかもしれません。
本日の視察クルーズは、前よりいっそう運河や東京湾に親しみ、そして身近に感じる意義があり、良き学びの機会でした。弊社も、この港区や東京の水辺の魅力を、今後も引き続き伝えていきたいと思います!