いざまちローディング画面

いざまち

「閻魔様」ってどんな神様? 昔は閻魔様を中心に盆踊りが開催されていた!? 港区の閻魔様を深掘りしよう

2024年10月22日

東京タワーのふもとにある、増上寺塔頭 三緑山 宝珠院。その歴史について教えていただきましたが、今回は、港区指定有形文化財にも指定されている、「閻魔大王像」を深掘りしたいと思います。

そもそも、閻魔様ってどんな神様? どうやって嘘を見抜くの? そして、閻魔様も含め、阿弥陀様にお薬師様、弁財天様と、なんで宝珠院に大集合しているの? などなど、今回も住職の森 俊人さんに教えてもらいましょう!

増上寺塔頭 三緑山 宝珠院 住職 第23世
森 俊人さん
「京都、鎌倉、増上寺の行を得て、2011年に宝珠院の住職に就任。愛犬の副住職と共に日々仏道修行中です」

閻魔様ってどんな神様? いつから宝珠院にいらっしゃるの?

江戸時代、観光地でもあった増上寺に詣でる市井の人たちをお迎えするお寺だった宝珠院(詳しくはこちらの記事)。閻魔様はいつからいらっしゃるのでしょうか?

「1685(貞亨2)年に創建された宝珠院ですが、閻魔様も当時からいらっしゃいます。高さ2mと大きな閻魔様なので、ご近所の方を含め、大人になったいまでも目を閉じると子どものころに見た宝珠院の閻魔様を思い出す、という方も多いですね」

江戸時代に描かれた、旧閻魔堂 ※画像提供:宝珠院

子どもの頃に見た記憶が大人になっても残っているなんて、相当なインパクトだったんでしょう。でも、赤い顔で眉を吊り上げた閻魔様、子どもなら怖くて忘れられないのも仕方ないですよね。大人の私が見ても、ちょっとドキッとします。

ところで、お寺って仏様がいらっしゃる場所のはず。閻魔様は仏様ではないのでは……?

「そう。閻魔様は神様です。仏教では地獄には10人の王様がいて、5番目の王様が閻魔様。極楽か地獄かジャッジする怖い神様、と思われている方が大勢だと思うんですが、実はとっても慈悲深い神様なんです」

慈悲深い? 閻魔様には、厳しめのイメージしかありませんが……。

閻魔大王とその左右の司録・司命 ※画像提供:宝珠院

「閻魔様のすぐ左右に、杖の上に男性と女性の頭が乗った『人頭杖(にんずじょう)』というのがありますが、これが、いわゆるウソ発見器。閻魔様に“生前嘘ついたか? 悪いことしたか?”と聞かれて、嘘をつくと男性の口から火が出る、本当のことを言えば、女性の口からお花びらが舞うんです。でも、閻魔様に“お前、悪いことしたな”と言われても、ちゃんと反省し、正直に“申し訳ありません!”とお答えすれば、“よし、じゃぁ極楽行ってもいいぞ”と言ってくださる。
悔い改める気持ちがあれば、チャンスを与えてくださるのが閻魔様なんです。
もっとも、閻魔様を見て“怖い”と感じるのも、悪いことをしてはいけない、という情操教育としては必要なことなのかな、とも思いますよね」

ガラス越しにも閻魔様がよく見えるよう、暖簾も設置されています。

なるほど。そう考えると優しい神様なのかも?「人間なので、どうしても嘘をついてしまう時もありますからね。悪いことだったと理解して、反省すれば大丈夫です」と、閻魔様のような広い心をお持ちのご住職が教えてくれました。

聞いてもらうだけで心が軽くなる! ご近所さんとのやり取りから生まれた「閻魔耳」

宝珠院の閻魔様と言えば、もうひとつ忘れてはならないのが、閻魔様に向かって左側にある「閻魔耳」。

原寸の閻魔様の耳。神様だけあって、きれいな福耳! ※画像提供:宝珠院

「閻魔耳は、2019(令和元)年に本堂を建て替えた時に、新しく作らせていただいたんです。
昔から来られている方が、“閻魔様にちょっとした悪事を聞いてもらっているのよ。聞いてもらうとすっきりするから”と、おっしゃっているのを聞いて思いついたんです。こそっと、気軽に悪事を打ち明けられる場所があるといいのかな、と思って」

確かに、閻魔様にこそっと耳打ちであれば、お散歩の途中で気軽に懺悔もできそう。

「以前は『懺悔箱』を用意していたんですよ。紙に書いていただいて、お焚き上げする形式だったんですが、書いていただくのも大変ですもんね。
閻魔耳も、少し低い位置にして、お子さんも閻魔様に耳打ちできるようにしています。“ガラス割っちゃいました”とかね(笑)。お母さんより先に閻魔様にお打ち明けできれば、だいぶ気持ちも楽になるかな、と。
この耳は、閻魔像の原寸。左官屋さんが、図面やお像を見て作ってくださったんです」

なんと原寸とは! 普段は遠くからしか見えない閻魔様の右耳、ぜひ近くで拝見しましょう。心のつかえも一緒に聞いてもらって、すっきりするのも良いですね!

閻魔様を囲んで盆踊り!? いつの日か、かつての閻魔縁日の復活を!

「開創時から続いているのですが、いまでも毎年1月と7月に『閻魔大王祭礼日(閻魔縁日)』を行っているんです。1月は“初閻魔”、7月は“大祭日”と言っていますが、皆さん7月のお盆時期の閻魔縁日の印象が強いみたいですね。この日は『地獄絵図』『極楽絵図』の公開もあるのですが、この『地獄絵図』も怖くてねぇ(笑)」

閻魔縁日で公開される『地獄絵図』 ※画像提供:宝珠院

「子どものころに見て、トラウマですよ」と笑うご住職。縁日と言うと、屋台なども出るのでしょうか?

「“縁日”という言葉は残っていますが、お祭りは無くなってしまったんです。かつては境内から赤羽橋の方まで屋台が立ち並び、閻魔様を中心にお盆祭りが開催されていたようです。私も見たことがないんですが、太鼓と鐘を、どんじゃんどんじゃんと鳴らして、とても賑やかなお祭りだったと聞いていますね」

閻魔縁日で公開される『極楽絵図』  ※画像提供:宝珠院

閻魔様を囲んでの盆踊り! ぜひ見てみたい、とお話していると、ご住職も「なんとか復活させたいと思っているんですよねぇ」と一言。

「閻魔様を囲むお祭りなんて、なかなかないですからね。どうにかできないかな、と思っているんですが、難しい部分も多くて……。閻魔縁日の復活は、私のライフワークになりそうです(笑)」

戦火から宝珠院の閻魔様や秘仏を守った、ほんの少しの違い

宝珠院建立時から鎮座する閻魔様 ※画像提供:宝珠院

お話をうかがっていて、ふとした疑問が。
現在の増上寺周辺は、第二次世界大戦中、かなりの空襲被害を受けたエリア。でも、宝珠院の閻魔様は創建当時からいらっしゃるし、秘仏である家康公が信仰していた弁財天様も健在です。戦争の被害は受けなかったのでしょうか?

「戦時中、増上寺にも爆弾が落ちちゃいましたからね。ただこの時は、“爆弾落とすぞ!”と言うアメリカ軍からの予告のうえでの爆撃だったので、持ち出せるものは持ち出したと聞いています。
でも、宝珠院は戦時中、いまの場所に移る前だったから、増上寺からも少し離れていたこともあり、焼けなかったんですよ(宝珠院が現在の場所に移ったのは東京タワーができた時。詳しくはこちらの記事でご紹介しています)」

現在は増上寺の真裏と言えるくらい近い場所にある宝珠院ですが、戦時中はいまよりもほんの少し赤羽橋側だったことが幸いしたよう。

その近さから、夜の境内から見上げる東京タワーも迫力満点! ※画像提供:宝珠院

「先々代の住職が、池の中に仏様などを入れて守ったと言っていました。燃えないようにするには、土に埋めるか、池に入れるしか方法がなかったですからね」

徒歩数分の距離とは言え、お寺が移転する前だったから、お寺の目の前に池があったから……。本当に些細な違いですが、だからこそ、いまでも私たちが当時のままの閻魔様や弁財天様を拝めるんですね。

古来から変わらない、仏様に手を合わせる日本人の姿

ご本尊である阿弥陀如来像 ※画像提供:宝珠院

宝珠院に安置されているのは、閻魔様だけではありません。もちろんお寺なので、ご本尊である阿弥陀如来様、薬師如来様などの仏様もいらっしゃいます。加えて、徳川家康公が篤く信仰していた弁財天様まで。

「私たち浄土宗は、ご本尊である阿弥陀如来様がいらっしゃれば、基本的には完結しちゃうんです。南無阿弥陀仏を唱えれば、生きている間も大丈夫、亡くなっても極楽浄土に行けますよ、という教えですから。なので、このようにたくさんの仏様や神様が集まっているのは、珍しいかもしれないですね。
これは私の想像ですが、こういった部分にも宝珠院の初代住職・霊玄上人の想いがあったんじゃないかな、と思うんです」

と、言うと?

「健康で生きていくために必要なのは、薬学・医学を司るお薬師様。でも、生きていくためには、お金も必要ですので、お金を稼がせてほしいとお祈りするための財貨を司る弁財天様がいらっしゃる。でも、欲望に負けて悪いことをするととんでもないことになるぞ、とにらみをきかせてくれる閻魔様もいらっしゃる。亡くなった後は、閻魔様が、地獄か極楽か判断されますよね。生きている現在のことから、亡くなったあとのことまで、全部お祈りができる。
たくさんの仏様や神様がいらっしゃって、どんな方でもお迎えしますよ、というコンセプトの通りですよね」

本堂の入り口に鎮座する薬師如来像 ※画像提供:宝珠院

なるほど、確かに!そして、しみじみとご住職が続けます。

「コロナ禍の時は、やっぱりお薬師様に手を合わせられる方が多かったですね。江戸時代は疫病が流行ると祈願で手を合わせるしかなかったのでしょうが、医療が発達した令和の時代も、同じように皆さん手を合わせられるんだ……って、ちょっと驚きました」

思い返せば、パンデミックの時は、ソーシャルディスタンスやステイホームなど、さまざまな対策が取られました。でも、最後に神仏に手を合わせるという行為は、しっかり日本人に受け継がれ続けるのかもしれませんね。

増上寺塔頭 三緑山 宝珠院
住所:東京都港区芝公園4-8-55
寺務所受付/9:30~16:30
アクセス:都営大江戸線「赤羽橋駅」より徒歩約5分、都営三田線「芝公園駅」より徒歩約7分

前の記事

勝利、無病息災・長寿、さらに商売繁盛まで祈願できる!? 覚林寺「山手七福神巡り」と「清正公大祭」