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イタリア仕込みの古き良きレストラン「洋食屋 大越」——永坂の記憶を詰め込んだ「永坂カレー」

2026年5月14日

都心3区のひとつ「港区」は、数週間足が遠のくだけでも馴染みの店が姿を消し、あらたなスポットが生まれる変化の激しい街。そんな港区・麻布十番のなかで、時代の流れに寄り添いながらも、昔から変わらず愛され続ける店があります。

麻布のご当地グルメ「麻布坂カレー」の提供店舗を巡る連載【麻布坂カレー×まち散歩】も、おかげさまで第五弾。今回は、昭和38年(1963)創業の「洋食屋 大越」を訪ねました。

東京メトロ南北線・都営大江戸線「麻布十番駅」6番出口から徒歩1分。首都高速都心環状線が走る麻布通り沿いにお店を構えます。

イタリアで修業を積んだ3代目が腕をふるう「洋食屋 大越」。緑・白・赤のイタリア国旗カラーの看板が目印です。

3代続く、変わらぬおいしさ
移りゆく麻布十番で愛され続ける洋食店

洋食屋 大越で提供されている麻布坂カレーは、チキンカツをのせた「永坂カレー」。お話を伺ったのは、3代目の大谷広司(おおたに ひろし)さんです。

——「洋食屋 大越」という店名の由来を教えてください。

大谷さん:創業した昭和38年(1963)当時は、デパート「三越」がとても勢いのある時代で、その「越」の字をいただこうとなりました。大谷の「大」と三越の「三」は画数が同じなので、縁起も良いのではないか、と考えたのも理由のひとつです。

——長年愛される理由は、どんなところにあるのでしょうか。

大谷さん:やっぱり、気軽に入れる点が一番の魅力だと思います。父と母、私の3人でやっているので、ほのぼのとしたアットホームな雰囲気のなかで食事が楽しめます。

私は20年ほど前に、イタリアで4年間料理の修業をしていました。修行前から店には立っていましたが、帰国後はメインで調理を担当しています。

ランチ営業は15時まで。平日は20時までのディナー営業も行っています。

料理のこだわりは、創業以来受け継ぐデミグラスソース。その味の決め手になっているのが、「こがし」です。小麦粉をじっくり5時間かけて焦がし、苦みが出る一歩手前まで炒めることで、香ばしさを引き出しています。

ソースのベースには、牛骨を2時間ほど煮込んで仕上げたスープを使用。フルーツの皮や野菜のくずを加えて出汁をとっています。

こうして出来上がったデミグラスソースは、煮込みハンバーグやビーフシチューのほか、ミートソースのベースや揚げ物にかけて使っています。

3代にわたり継ぎ足されてきたデミグラスソース。

大谷さん:当店では、お客さんのお好みに合わせてメニューをアレンジすることもできます。ハヤシライスやかつ丼、唐揚げなどはメニュー表には載っていませんが、既に用意しているソースや材料を組み合わせて提供しています。常連さんはこのような「裏メニュー」を頼む方が多いですね。

ちなみにお客さんの間でひそかに人気なのが、サイドメニューのしじみの味噌汁。大きな鍋で大量に作っているため、しじみの出汁が効いていて美味しいです。

手間暇かけた料理と飾らない空気感が、常連さんに愛されている理由なのかもしれませんね。

お店のイチオシは、煮込みハンバーグ付きの特製塩味スパゲッティ。やきめし類のなかでは、“ミートソース”と“カレー”を合いがけした「みかライス」も人気です。

店内を眺めていると、柱いっぱいに書かれた文字が目に留まりました。

——レジ横の柱、たくさん名前が書いてありますね。

大谷さん:子ども連れのお客さんがよくいらっしゃるのですが、席でじっとしていられない子もいるので、「じゃあここで背でも計ろうか」となりました(笑)常連の子が何度も計ったり、それを見ていたほかの子が真似をしていくうちに、こうして名前が増えていきました。

お店の歴史とともに近所のお子さんの成長も感じられ、まさに「地元に根付いた洋食店」という印象を受けました。

——60年以上こちらでお店を続けるなかで、麻布十番はどのように変わっていきましたか?

大谷さん:麻布十番駅が開業したのは、実は2000年なんですよ。僕の子どもの頃、この辺りはアクセスも不便で、交通機関もバスやタクシーくらいでした。そのため「陸の孤島」といわれていました。渋谷や六本木、広尾には人がたくさん来るけれど、麻布十番は地元の人たちだけで賑わっているような街でした。駅ができてからは外から人が訪れるようになり、ビルも増えました。幼少期に比べると街が非常に垢抜けたように感じます。

——街の変化とともにお客さんも変わっていきましたか?

大谷さん:まだ駅のなかった開店当初は、店舗の目の前が大通りなのでタクシーの運転手さんが来店することが多かったように感じます。そのため近所の方は入りにくかったのかもしれません。現在は、近所にお住まいの方が多くいらっしゃるようになりました。

——ちなみに、大谷さんから現在のこのあたりのおすすめの過ごし方はありますか?

大谷さん:麻布十番駅から六本木方面へ伸びる「麻布十番商店街」をぜひ歩いてみてください。300以上の店舗が軒を連ねていて、サロンや洋菓子店のほか、江戸時代から続く老舗飲食店も数多く残っています。商店街のお店は小・中学生時代の同級生が営業している店舗も多く、地元のみんなで賑わう下町情緒のある商店街です。

▼『いざまち』では麻布十番商店街で毎年8月に開催される「麻布十番納涼まつり」のインタビューも行っています。
【行ってきました!】麻布十番納涼まつり2025は屋台グルメも子供イベントも大盛況!

地元企業の記憶からスパイ・ゾルゲ伝説まで
永坂の歴史を映したご当地カレー

——今回、麻布坂カレープロジェクトはどのような経緯で参加されたのでしょうか。

大谷さん:私は生まれも育ちもこの街なので、「常に街に携わっていたい」「街を応援したい」という想いがありました。こうした地域プロジェクトへの参加は初めてでしたが、今回は麻布坂カレープロジェクトの担当者の方に声をかけていただいたことがきっかけで参加しました。

「洋食屋 大越」では、2025年3月から「永坂カレー」の提供をスタート。

——「永坂カレー」のこだわりを教えてください。

大谷さん:お店の近くにある「永坂」にまつわる要素を詰め込みました。

永坂の上には二層の高速道路が通っているので、ライスの上に縦半分に切ったチキンカツを二枚重ねにしています。

また、坂の途中には老舗そば屋「永坂更科布屋太兵衛」のそばつゆを製造している工場があります。今では想像もできないでしょうが、昔はほぼ一日中、そばつゆの鰹節の香りが当店まで漂ってきていました。そこで、永坂カレーには鰹出汁の効いたお吸い物を付けています。

さらに当店の近所には「リヒャルト・ゾルゲ」というソビエト連邦のスパイが住んでいました。日本の対ソ政策や対中国政策、日独関係などの調査のために移住していたそうです。この「スパイが住んでいた」というエピソードから、すっぱいお漬物をセットにしています。

リヒャルト・ゾルゲ
※Wikimedia Commonsより引用

「長坂」とも書き、麻布台上から十番へ下る長い坂であったことが坂名の由来。長坂氏が付近に住んでいたともいいますが、その確証は得られていません。※港区公式サイトより引用

永坂の上を走る高速道路。

「洋食屋 大越」から六本木一丁目駅の方面に2分ほど歩くと「永坂更科布屋太兵衛」の本社工場があります。

——メニュー開発で苦労したことはありましたか。

大谷さん:当店は麻布坂カレー第二弾からの参加だったので、最初はイベントの規模感も分からず、どのようなメニューを出せばよいのか悩みました。あえて新しいものを用意するのではなく、既存メニューの組み合わせで当店らしい素朴な良さを表現しようと考えたんです。

——参加後の反響はいかがですか。

大谷さん:ゾルゲ目当てに永坂カレーを注文するお客さんが来店されたのが驚きでした。こうしたいろいろなお客さんに知っていただくきっかけが生まれたことが「麻布坂カレー」ならではの面白さではありますね。

お話が盛り上がったところで、ここからは厨房へ。「永坂カレー」完成までの様子を覗かせていただきました。

玉ねぎをたっぷり使い、甘めに仕上げた特製カレールー。

揚げ物の音を聞いていると、自然とお腹が鳴ります(笑)

2層の高速道路を表現したチキンカツをトッピング。

自家製ぬか床も見せていただきました。

大根、きゅうり、にんじん、白菜の4種類をあえて古漬けにしています。

チキンカツカレーに、漬物とお吸い物、公式キャラクターのアクリルキーホルダー付き。※免許証風ステッカーは期間限定特典

昔ながらの銀皿で提供されます。

揚げたてのチキンカツは、衣はサクサク、中はジューシーで、甘みのあるカレーによく合います。卓上にはウスターソースや醤油、カラシなども用意されており、好みに合わせて味の変化を楽しめます。

大根、きゅうり、にんじん、白菜の4種類を使ったお新香は、しっかり浸かっていて歯ごたえ抜群。しじみと麩の入った鰹出汁のお吸い物も、どこかほっとする味わいです。

チキンカツは高速道路を表現するためあえてカットせず提供。好きな大きさに切りながら、食感の違いも楽しめます。

どこか懐かしい味わいの永坂カレー。合間に漬物のほどよい塩気をはさむことで、スプーンがついつい進みます。三角食べをしながらあっという間に完食していました。

食後の寄り道もおすすめ
麻布十番の新旧の魅力に触れよう

左から広司さん、美代子さん、信夫さん。お三方の温かい雰囲気も相まって、料理がより心に沁みました。

実家のような安心感で地元の方に愛される「洋食屋 大越」。お腹だけでなく、心まで満たされるようなお店です。

大谷さんご家族の賑やかな会話が飛び交う店内は居心地抜群。取材中は、この連載で訪れたほかの麻布坂カレー店舗の話題でも盛り上がりました(笑)連載記事がすべて公開されたら、また改めてご報告に伺いたいと思います。

帰り道には、麻布十番駅6番出口すぐの「一の橋公園」に立ち寄ってみました。

大きな噴水が目印。夜間にはライトアップも楽しめます。

歩き疲れた時や、少し調べ物をしたい時にも便利。ベンチが多く整備されているためゆったりと過ごせます。

植栽も豊富で、都心のオアシスのようなスポットです。

「AZABU地区公園かわら版」というチラシを発見。麻布エリアで開催予定のイベント情報が満載。

ロッククライミングなどの遊具も充実。

ちびっこが喜ぶローラーすべり台も賑わっていました。

一の橋公園は、古川の調整池等の整備工事にあわせて2008年から閉鎖されていましたが、2023年にリニューアルオープンしたそう。

ランチの後に少し寄り道してみると、街の知らなかった魅力に出会えます。お子さんと散歩がてら遊びに行くのもおすすめです!

おいしい食事と店主との会話、そして帰り道の公園散策。またひとつ、麻布十番への好きが増した一日でした。

洋食屋 大越
住所:東京都港区東麻布3-4-17
時間: 11:00~15:00(平日は17:00~20:00も営業)
定休日:日曜
アクセス:東京メトロ南北線・都営地下鉄大江戸線 麻布十番駅「6番出口」より徒歩1分
永坂カレー:1,450円(税込)

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