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お菓子の歴史と未来の架け橋となる「虎屋文庫」とは(2)

2024年4月4日

室町時代後期に京都で創業した虎屋。1869(明治2)年、京都店はそのままに東京にも進出、1879年より赤坂に店舗を構えました。1973(昭和48)年に「和菓子文化の伝承と創造の一翼を担うこと」を目的として設立されたのが、菓子資料室「虎屋文庫」です。

虎屋文庫について、根掘り葉掘りお話をうかがう、第2弾。

第1回目は、虎屋文庫の主な業務や保管されている史料についてをメインに伺いました。今回も引き続き、虎屋文庫の研究主査・河上可央理さんに、虎屋文庫が携わる幅広い活動について教えてもらいました!

<第1回目はこちらから>

お菓子は“かたち”や“味”だけでなく、思い出を含めて楽しめるもの

ヒノキの香りが心地よい、虎屋 赤坂ギャラリー。

虎屋文庫は年1回程度、港区にある、とらや 赤坂店の地下1階「虎屋 赤坂ギャラリー」で資料展を開催しています。

河上さんは、「虎屋文庫は非公開の資料室なので、虎屋 赤坂ギャラリー での展示は、古い史料などを直接見ていただける数少ない機会。たとえば『和菓子の〈はじめて〉物語展』では、饅頭伝来に関わる看板や、菓子見本帳なども展示しました。このような展示を地道に続けるのも大切だと感じます」と言います。

「ほかにも『和菓子の〈はじめて〉物語展』では、お客さまの思い出の菓子をポストイットに書いて貼っていただくコーナーも設けました。どのくらい集まるかな……と少し不安だったのですが、ご家族とのエピソードを書いてくださる方も多く、“お菓子は思い出を含めて楽しめるものなのだな”と改めて感じましたね。
たまたま展示を見に来た社員が、お客様のエピソードを読んでいるうちに感動して、思わず涙ぐんでしまったということもありました」

河上さんのお言葉から、私も「お菓子の思い出」を考えてみると、真っ先に思い浮かんだのは誰かと一緒にお菓子を食べていたシーン(ちなみに、子どもの頃に祖母・母・私の女3代で水ようかんを食べていた様子でした)。

普段は見た目や味にばかり注目して、「誰と楽しんだか」などはあまり考えたことがありませんでしたが、掌に載るほどの小さなお菓子には、美味しさをも超越する魅力が詰まっているのかもしれません。

あの偉人も和菓子好き! 虎屋文庫によるコラム「歴史上の人物と和菓子」

虎屋文庫のホームページには、所蔵資料の紹介をはじめ、和菓子にまつわるさまざまなコラムも掲載されています。

歴史上の人物にまつわるお菓子のエピソードを紹介する、「歴史上の人物と和菓子」もそのひとつ。今につながる菓子も登場する『源氏物語』の作者・紫式部をはじめ、豊臣秀頼、ペリー、渋沢栄一など、さまざまな偉人とお菓子のあれこれを知ることができます。

たとえば、港区に居を構えていた岩﨑小彌太(三菱財閥を起こした岩崎彌太郎の弟・彌之助の長男)の夫人が考案し、いまでも虎屋の商品として販売されている、ゴルフボールを模した最中「ホールインワン」誕生のエピソード。

当初は押物(落雁)や羊羹製(こなし)生地で作られ、のちに最中となり、「ホールインワン」の名前がつけられた。

考案されたのは、ゴルフが限られた階級の人にしか馴染みのなかった1926(大正15)年。箱根の別邸で岩﨑小彌太がパーティーを開催した折、客人を喜ばせようと孝子夫人がゴルフボール形のお菓子を思いつき、虎屋に注文したそう。しかし当時ゴルフはハイカラなスポーツであり、高価だったゴルフボールを見たこともない店員さんや職人さんは大苦戦。苦心の末に生み出された商品だった、という裏話を知ることができます。

このような「へぇ~」と思わせてくれるコラムを書かれているのも、虎屋文庫のみなさん。

「コラムは持ち回りで執筆しています。私は随筆や日記からネタを探すことが多いですが、茶会記だったり歴史史料だったり、担当者ごとに探し方や選ぶ人物が変わるのも面白いところですね。
お菓子は誰でも食べるものなので、お菓子に関する情報はどこにでも潜んでいます。地道ですが、お菓子の情報を見つけるたびに記録することを続けています」

虎屋の紙袋のもととなった雛井籠に感動!

会社の歴史にも、お菓子についても深い知識をお持ちの河上さん。もともと和菓子に興味があって虎屋文庫に所属されていらっしゃるのでしょうか?

「入社前から『虎屋文庫』という部署の存在は知っていましたが、特に意識はしておらず、入社後にまず配属されたのは店舗です。和菓子に興味を持っていろいろ食べるようになったのは、入社後なのですが、そこで菓子資料室として活動する部署に興味が湧き、虎屋文庫への異動を希望して現在に至ります」

なんと、和菓子への深い興味が湧いたのは入社後というから驚き! 確かに株式会社虎屋の一部署なので、虎屋文庫への異動があるのも当然ですが、面白いものですね。

第1回目の記事でご紹介したように、虎屋文庫には7,000点を超す貴重な史料があります。その中から、河上さんが虎屋文庫に異動後、実物を目にしていちばん感動した史料について教えていただきました。

虎屋と言えば、この紙袋!

「いろいろありますが、やっぱり雛井籠(ひなせいろう) ですね。入社時に虎屋の紙袋の模様は雛井籠がもとになっている、と教えられていたのですが、実物を見たときは、おぉ……と、感動しました」

もちろん、ホームページのコラムでも雛井籠が紹介されています。

50年以上も虎屋の顔として受け継がれている、漆黒に虎が駆ける姿の紙袋。私個人としても、この紙袋を目にすると湧き上がるワクワク感があるので、これから先も変わってほしくないデザインのひとつです。

100年後を見据え、お菓子の文化をつなげてゆく

「虎屋文庫では、虎屋に関する情報を後世に残していくため、各部署が日々発行する文書などを整理・保管する業務もあります。古い資料を守るのはもちろん大切ですが、100年後の人が活用できるように、現在あるものを正しく残すのも大事な仕事だと改めて感じます」

虎屋文庫は、お菓子の過去と未来、両方を見据えて活動されている存在。

最後に、和菓子のプロフェッショナルでもある河上さんに、いちばん好きな和菓子を聞いてみました。「いちばん好きな和菓子……。その時々で好きなものが変わってしまうのですが……」と、しばらく悩まれた後のお答えは、ごもっともなものでした!

「手前みそになってしまうのですが、虎屋に入ってから“やっぱり羊羹って美味しいな”と感じましたね。先ほどもお伝えしましたが、虎屋に入社してから和菓子をたくさん食べるようになったので、ほかのお店を含め“羊羹ってこんなに美味しかったんだ”と思いました」

煉羊羹は、小豆と砂糖、寒天のシンプルな材料。パワーチャージにもおすすめです。

和菓子の老舗虎屋だからこそできること、そして和菓子文化をつなぎ、発展のための活動をされている虎屋文庫のみなさん。

今回、河上さんのお話をうかがえばうかがうほど、素敵なお仕事だなと感じました!

虎屋文庫についてはこちら
菓子資料室 虎屋文庫

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