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お菓子の歴史と未来の架け橋となる「虎屋文庫」とは(1)

2024年3月27日

港区赤坂にある和菓子の老舗「とらや」。

2023年秋、虎屋 赤坂ギャラリーで開催されていた「虎屋文庫50周年記念! 和菓子の〈はじめて〉物語展(※現在は終了)」をご紹介しましたが、今回はこの虎屋文庫資料展の企画・運営をしている「虎屋文庫」について、掘り下げてみたいと思います。

和菓子文化の伝承と創造の一翼を担う、虎屋文庫

「虎屋文庫」は 、「和菓子文化の伝承と創造の一翼を担うこと」を目的に、1973(昭和48)年に設立された「菓子資料室」です。
株式会社虎屋の一部署であり、その実態は非公開。いったいどんな活動をされているのか、和菓子好きにとって気になりすぎる存在です。

というわけで今回、虎屋文庫の研究主査・河上可央理さんに、虎屋文庫について根掘り葉掘りうかがう機会をいただきました!

まずは、虎屋文庫さんの業務について教えてもらいましょう。

5世紀にわたり和菓子屋を営む虎屋に伝来する史料の保存・整理をはじめ、幅広く活動する虎屋文庫

「虎屋が創業したのは室町時代後期の京都、現在までおよそ5世紀の歴史があります。虎屋文庫では、虎屋に伝来する史料を保存・整理するとともに、さまざまな菓子資料を収集しています。それらをもとに情報発信も行っており、前回ご紹介いただいたような資料展の開催に加え、和菓子についての論文や収蔵資料の翻刻を掲載している機関誌『和菓子』を年に1回発行したり、虎屋ホームページ内にある“菓子資料室 虎屋文庫”のページで、史料のご紹介や和菓子に関するコラムを執筆したり……。
お客さまから寄せられた、お菓子に関するお問い合わせの対応も行いますね」

史料整理から展示、機関誌の発行にコラム執筆と、想像以上に幅広い業務! 大きな組織なのかと思って規模を聞いてみると、「基本的には10名ほどの社員ですべて対応しています」とのこと。

虎屋文庫が保管する史料は7,000点超!

河上さんはひと言で「史料の保存・整理」とおっしゃいましたが、その種類や数は、かなりの点数になるのではないでしょうか?

「現在保管している史料は、江戸時代の虎屋の経営史料である“虎屋黒川家文書”が約1,100点。江戸時代~近代にかけての古文献が約3,000点。ほかにも、井籠(せいろう/お菓子を届ける際に使用した入れ物)や看板などの古器物が約200点、古い菓子木型が約3,000点あります」

このような貴重な史料は、虎屋 赤坂ギャラリー で開催される資料展での展示をはじめ、外部の博物館での菓子関連の展示に画像協力などをすることもあるそうです。

「最近はお菓子の企画展のお問い合わせやご相談が増えてきた印象もあり、特に2013(平成25)年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて以来、菓子関連の展示はちょっとしたブームになっているのかな、という気がしますね」

そしてここでちょっとした疑問。
保管されている史料でいちばん古いものって、どんなものでしょうか?

「虎屋に残るいちばん古い史料は、京都の土地(現在の虎屋菓寮 京都一条店にあたる)の買い増しの証文です。1628(寛永5)年のものなので、400年近く前ですね」

なるほど。当時から土地の買い増しはちゃんと証文でやりとりしていたんですね。京都ではじまり、1869(明治2)年の東京遷都の際、天皇にお供して、 東京にもお店を構えた虎屋。創業当時から、今も変わらず販売しているお菓子があるのかも気になります。

1635(寛永12)年 院御所様行幸之御菓子通

「創業当時の史料は残っていないのですが、いちばん古い注文の記録は1635(寛永12)年のものです。カステラや昆布のように現在の虎屋では販売していないものも載っていますが、今につながる菓子としては、“やうかん(羊羹)”の文字が確認できますね。ちなみに当時は現在主流の煉羊羹はまだなく、蒸羊羹でした」

やっぱり「虎屋と言えば羊羹」というのは、約400年前から変わらないのかもしれません。でも、なぜ虎屋の代表菓子が羊羹になったのでしょうか?

1819(文政2)年にはすでに作られていた記録がある「夜の梅」

「羊羹は持ち運びに便利で、特に煉羊羹は日持ちがすることもあり、お遣い物にしていただく機会も多かったのかもしれません。そしてやはり、美味しかったからというのもあるでしょう」

なるほど! サイズも手ごろ、日保ちもして美味しいとあれば、物流に時間がかかる当時、贈り物にはピッタリですよね。

こんなものまで!? 収集・保管している意外な情報

最初にご紹介したように、虎屋文庫は株式会社虎屋の一部署。そのため、古い史料の保存・整理と並行して、商品パッケージなど、現在の会社に関わる史料の保存も行っているそうです。

そしてなんと、虎屋“以外”のお菓子情報も集めているとか。

「レシピ本をはじめ、お菓子を題材にした小説やお菓子に関わる書籍・雑誌を購入しています。加えて、さまざまな大学や博物館・美術館などと情報交換もしているので、紀要や図録を送っていただいて、菓子関連の記述があればチェックしたりもしていますね」

虎屋のお菓子だけでなく、範囲を広げて「お菓子」という広い視野で活動されているということを知ると、改めて「和菓子文化の伝承と創造」の一端を見せていただいた気持ちになりました。

「お菓子の疑問は虎屋文庫に聞いてみよう」

さまざまなお菓子のお問い合わせの対応もしている、虎屋文庫。最初に、業務のひとつとして「お菓子のお問い合わせ」とおっしゃっていましたが、一体どんな質問が来るのでしょうか?

「よくいただくのは、“このお菓子の由来は?” “昔、虎屋で食べたお菓子について知りたい”という内容ですね」

確かに和菓子のデザインや菓銘は、短歌や古典から取られていたり四季を表現したりしているものも多く、「なぜこの菓銘なの? このデザインは何を表現しているの?」と気になることも多いかもしれません。

「和菓子は、視覚、味覚、嗅覚、聴覚、触覚の五感で楽しむ“五感の芸術”とも言われています。ここで言う聴覚とは、菓銘の響きを耳で聞くこと。菓銘の由来や、そのお菓子の歴史、背景にある物語をお伝えし、より深くお菓子を楽しんでいただくお手伝いをするのも、菓子屋としての役割のひとつだと思っています」

ほかにも、論文執筆のためのご質問を学生さんからもらったり、テレビ局から時代劇などで使うお菓子についてのお問い合わせもあるそう。

「虎屋文庫としてできるのは情報のご提供までになってしまうのですが、その学生さんや研究者の方がお菓子の研究を続けてくださり、ゆくゆくは『和菓子』に論文を寄稿していただけるといいな、などと考えると夢が膨らみますよね」

季節や行事にあわせてお菓子をいただく機会も多いですが、確かに「なぜこの行事にあわせてこのお菓子を食べるのだろう?」など、ちょっと気になることもあるはず。虎屋文庫は、私たちが感じる素朴なお菓子の疑問に対して、しっかりした裏付けのもと、その歴史や背景を教えてくれるのです。

河上さんも優しく微笑みながら、「和菓子の疑問があったら“じゃあ虎屋文庫に聞いてみよう”と思い浮かべていただけるとうれしい」とおっしゃっていたので、お菓子についての疑問があれば、虎屋文庫に相談してみるのも良いかもしれませんね。

河上さんのお話をうかがっていると、あれもこれも……と追加の質問がどんどん溢れてきてしまいます。
ということで、続きは第2回でご紹介いたします!

<第2回の記事に続く>

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