【港区の自治会】大都会で自治会活動ってどういうこと?
地方都市の風習かと思いこんでいた自治会活動
アドバンスワークスは国道246通り(青山通り)沿いに面しております。皇居から渋谷を繋ぐ片側3車線の道路ということで、とにかく美しく整備されており、路上にゴミが落ちていることはほとんどありません。
先日、近くのコンビニで昼食の買い出しをしていたところ、奉仕活動でしょうか。若手社員を伴って、通り沿いのゴミ拾いをされているサラリーマンの姿を見かけました。
偉いなあと感心しつつ「そういえば小さい頃はうちの田舎でもあんなことをやらされたな」と思い出しました。年に2~3回、公園や主要道の周りの清掃活動に大人たちが駆り出され、子どもも手伝いをさせられていたっけ。
たしか、「自治会」とか、「公民会」活動とか言っていました。
「さすがに港区ほど都会の中心部になると、そんな地味な活動はないんだろうな」
とその時は思っていたものです。
先日、TO・SHI・Nの編集会議の際に『港区町会・自治会ガイドブック』なる資料が飛び出してきました。
「え! 大都会港区にも自治会あるの!?」
衝撃を受けた私は、その場で挙手し、『港区内の自治会』なるものの正体を探るべく調査を開始しました。
そもそも自治会って何?意外と知らない住民自治の仕組み
よくよく考えると、「町会」・「自治会」・「公民会」などと色々な名前は聞いて知っていますが、それってどのようなものなのでしょうか。
そもそも、これらに違いはあるのでしょうか。
総務省が公開している資料によると
“町または字の区域その他市町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体のことを、自治会、町内会、町会、部落会、区会、区などと呼称する”
とのこと。
どうも、自治会も町会も、その他数多ある〇〇会も、基本的には同じもののようです。
これらの団体は「区域の住民相互の連絡」、「環境の整備」、「集会施設の維持管理」等、良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動を行っているとされています。
うん。難しい言葉で書かれていますが、昔手伝っていた地域の美化活動を思い浮かべればなんとなく想像がつきます。つまりは、住民が主体となりご近所と協力して、自分たちの住む町の周辺を暮らしやすくしましょうという活動を行っている団体ということですね。
だとするなら、住民が主体となった自治組織の活動を、冊子を作ってまで港区のような行政団体が支援している意味がよくわかりません。
さらに深く調べてみました。
法的にあいまいだった地縁団体という存在
自治会や町会について定義されている法律は、地方自治法。その中でも特に、第260条の2とその改正項目に注目してみましょう。
1947年の地方自治法施行日から、住民が主体となって地域社会において活動を行う自治会や、町内会などの組織は、法律上「地縁による団体(地縁団体)」と、定義されておりました。
地縁団体は、生活している地域環境をよくするという目標のため活動している「社団」とも言えます。ですが社団としての実質を備えていながら、法令上、法人としての登記ができなかったため、権利を行使することができなかった時代が長く続きました。
とはいえ住民主体の活動ですので、「法人化する必要もあるまい」と、しばらく問題は起きなかったようです。ところが、法人格を有しないことで、色々問題が起こることが次第に明らかになってきました。
例えば、集会所。
地縁団体は法人格取得が認められていませんでしたので、自治会の集会所として使う建物は、地縁団体の代表者の個人名義で取得するしかありませんでした。そのため、建物の所有者が亡くなると、相続で集会所の所有権が宙に浮いてしまう事態が起こりました。「登記上の所有者が明治生まれだった」「相続人は全国各地に散らばっている」などトラブルが相次ぎます。
こうしたトラブルを受け、平成3年4月2日地方自治法を改正し「認可地縁団体制度」が施行されることとなります。
地縁団体であっても、認可を受ければ法人格の取得が可能となり、団体名で不動産の登記ができるようになったのです。
令和3年5月の地方自治法改正では、さらに一歩前進。不動産等の保有を前提としない地縁団体でも、認可申請ができるように見直されました。ようやく地縁団体も、法人として契約行為が行えるようになりました。高齢化によって自分たちでは清掃活動が厳しくなった団体でも、自治会名義で清掃業者と契約することができますし、会長個人で管理しなければならなかった自治会費なども、法人名義で預かって管理し、金銭トラブルを未然に防ぐことができます。
地方自治法の近年の改正を見てもわかるように、日本は地縁団体の権利を拡大していく方向へ進んでいるようです。
港区の地縁団体支援活動もこうした流れの中から出てきたものなのでしょうか?
頭の中で考えていてもらちが明かないため、実際に港区産業・地域振興支援部へいくつか質問を投げてみました。
港区から見た地縁団体の位置づけ
今回、ご解答いただいたのは、地域振興課の藤岡さんです。
Q.1 現在、港区内でいわゆる「自治会」「町会」にあたる活動をされている地縁団体はどのくらいあるのでしょうか?
A. 町会・自治会に該当している団体は令和5年4月1日時点で、221団体あります。港区では、町会・自治会が利用できる補助金を設けており、上記団体数は原則として補助金を交付している地縁団体の数です。
Q.2 認可地縁団体制度が始まり、認可申請をされた地縁団体も多いかと思います。現状、どのくらいの割合の団体が、認可申請をされているのでしょうか。
A.およそ7%です。
Q.3 認可地縁団体になることで、どのようなメリットはあるのでしょうか? また、運用が始まってから見えてきた本制度の課題はございますか?
A.やはり、法人化することによって、地縁団体が普段活動で使っている土地や建物の所有者が曖昧になることを予防できることは大きいです。法人格をもって活動できることも大きなメリットだと思います。ですが不動産の所有権を移転するにあたって、費用面での負担や法的な手続きが煩雑であることは課題だと感じております。
Q.4 ちなみに各種手続きや申請を含め、港区と地縁団体の連絡・連携は、どちらの部署で担当されているのでしょうか?
A.港区では、区を芝・麻布・赤坂・高輪・芝浦港南の5つの地区に分け、各地区に総合支所を設置しています。町会や自治会とのやり取りは各地区総合支所に設置されている「協働推進課」という部署で主に行われています。
Q.5 協働推進課の普段の業務、活動内容を教えてください
A.今回のご質問の主題でもある町会・自治会活動への支援をはじめ、老人クラブへの支援、青少年対策地区委員会活動への支援、地域の商店街活動の支援、区設掲示板の維持管理など、地域振興のためになる業務を行っています。
また、 地域の防災住民組織への支援、地域防災訓練の企画・実施、消防団への支援、地域の生活安全活動(安全パトロールなど)の推進、家具転倒防止器具助成の申請・住まいの防犯対策助成の申請受付など、地域の防災・生活安全についてのお手伝いもしております。
質問者さまも地元で経験されたように、環境美化活動や、リサイクル活動団体への支援も協働推進課で担当いたします。都会らしい活動ですと、防鳥ネットの配布や騒音、振動などの環境に関する諸問題の相談、カラス対策相談などですね。地域猫の去勢・不妊手術費用の助成もこちらです。
その他にも、区民向け住宅の入居案内の配布、災害見舞金(小規模)の支給、区民交通傷害保険の受付と、地域の課題解決等に関わる大小のご相談は、こちらで対応しております。
Q.6 事前の予習で「各地縁団体は自治組織であり、行政とは一線が引かれている」と理解しました。そのうえで港区が「港区町会・自治会活動ガイドブック」という冊子を作成し、各団体の活動をバックアップされるメリットは、どこにあるのでしょうか?
A.メリットはものすごくあるんです。地縁団体は地域コミュニティの根幹であり、区民が安全・安心に暮らすために欠かせない互助組織だというのが港区の認識です。その活動範囲は、行政だけでは手が届かない地域の見守り活動や、防災訓練、地域清掃等多岐にわたっています。地縁団体がこうした地道な活動をしてくださるお陰で、地域の活性化や愛着の醸成につながり、港区全体が盛り上がっていきます。地域貢献への感謝も含め、その活動を継続的に支援していく必要はあると考えているんです。
Q.7 これまでに各地縁団体様と、協力して活動してきてよかったことはございますか?
A.町会・自治会を支援していく中で、地域のまつり等にも参加させてもらえる機会があります。地域の方たちとともに汗を流し活動できますし、そのような活動を通じて行政と地縁団体との信頼関係が醸成されていくことを肌で感じられることには、達成感を感じています。地域の方の笑顔も間近で見られますし、公務員をやっていてよかったと感じる瞬間が多い仕事だと感じています。
Q.8 あえて少し意地悪な質問をさせていただきます。港区として、こういったところが地縁団体との活動や支援で足りていない、今後の課題だと考えているところはどこでしょうか?
A.参加が任意である以上強制はできないのですが、町会・自治会に対する若年層加入者の減少については、情報発信の強化等をもっと区として支援していく必要性を感じています。町会・自治会活動の楽しさや地域一体となった活動の意義が十分に伝わっていないことが原因の一つであり、課題であると認識しています。
Q.9 港区として、今後各 地縁団体とともに取り組んでいくうえでの目標はございますか?
A.町会・自治会が安定して運営できるような支援を目標としています。具体的な施策としては、加入者の減少を防ぐことや役員の業務負担を軽減するための、デジタル化推進等の支援を進めております。町会・自治会の皆さんが地域に愛着をもち、地域で楽しく活動していただくことを通じて、港区の地域コミュニティがますます活性化するよう、支援を続けていきたいです。
港区ならではの地縁団体を発見
お話を伺って感じたのは、我々が思っている以上に行政は、地縁団体の活動支援というものを重視されているということでした。だからこそ、若年層加入者の減少という問題については、頭を抱えていらっしゃるということもひしひしと伝わってきました。
たしかに私も30代後半に差し掛かりましたが町会活動に参加したことはありませんでしたし、こうして調べてみるまで「自分の住んでいる地域にも町会があるはず」ということに、考えが及んでおりませんでした。地元の町内会の情報は、それくらい住民にまで届いていないのです。
「情報発信の強化等をもっと区として支援していく必要性を感じています」
という、藤岡さんの回答は本心からでしょう。
この活動を始めるようになって、港区内のお祭りや、イベントに積極的に参加するようになりました。毎回、町会・自治会の方々を中心に老若男女混ざりあってとても楽しそうに活動されている姿に、それほど社交的ではない私ですらうらやましく感じます。
自治会に参加していない方の中には、交流が嫌という人よりも、自治会の存在を知らないだけでの人が一定数いるのかもしれません。そのような人たちに、町会・自治会の素晴らしさを伝えていければ、もっと多くの人が活動に参加するのかもしれない……。
「我々で情報発信のお手伝いができるかもなあ」などと考えながら、ぼーっと今回の取材のきっかけとなった『港区町会・自治会ガイドブック』をパラパラめくっていました。すると、とても破壊力のある単語が目に入ってきたのです。
「六本木ヒルズ自治会」
え!? 六本木ヒルズにも自治会あるの!?
よくよく見ると、港区には、タワマンや高級住宅街の名前で登録されている自治会や町会がかなりの数あるではありませんか。
「これって、凄いことだし、都心部ならではのおもしろい現象じゃない?」
ということで、本サイトではこれから定期的に、港区内の地縁団体活動をテーマとした取材も始めたいと思います。
これを読んでくださった、みなさんもご自身の住んでいる地域の町会・自治会のことを調べてみませんか?きっと面白いことが待っていると思います!