
【麻布坂カレープロジェクト】~坂の歴史や由来を伝えるご当地カレーの誕生秘話~
数々の名坂が絶品カレーに
麻布の地形から生まれた一大プロジェクト
麻布の坂は、日本の地形の特徴と深く関わりながら形づくられてきました。
国土の約7割を山地が占め、川や谷に沿って集落が発展してきた日本は、世界的に見ても坂道の多い国といわれています。「坂」の字を含む地名や苗字が数多くみられることに加え、「乃木坂」「欅坂」といったアイドルグループの名称にも使われていることから、坂道が人々の暮らしや文化に身近な存在であることを改めて実感させられます。
坂の多い街としては、小樽や神戸、長崎などがよく知られていますが、実は東京23区にも名前の付いた坂が数多く存在します。なかでも港区は、木製の案内標識が設置された坂だけでも70ヵ所以上あるといわれています。
というのも、港区の西側は「武蔵野台地」の縁にあたる高台で、東側には埋立地からなる湾岸の低地が広がっています。さらに、「古川」をはじめとする河川が台地を削ることで、起伏に富んだ複雑な地形が形成されています。
なかでも、台地に囲まれたすり鉢状の谷地に位置する麻布エリア周辺は、坂道が特に集中している地域です。加えて、現在の広尾一帯には、江戸時代中期に多くの武家屋敷が立ち並んでおり、その歴史に由来する坂の名称も数多く残されています。

麻布十番の西に位置する「鳥居坂」。江戸時代中頃まで坂の東側に大名・鳥居家の屋敷があったことに由来しています。
今回は、こうした歴史が色濃く残る「麻布の坂」と、世代を問わず親しまれている定番グルメ「カレー」を掛け合わせたユニークな取り組み「麻布坂カレープロジェクト」についてお話を伺ってきました。今後は、プロジェクトに参加する飲食店も順次取り上げていく予定です。ぜひお楽しみに。
今回、取材にご対応いただいたのは、本プロジェクトの担当者、港区麻布地区総合支所協働推進課長の池端 隼人(いけはた はやと)さんです。「麻布坂カレー」は港区麻布地区総合支所の地域事業「麻布地区 地域事業活性化プロジェクト」の一環として展開されています。区民と協働推進課が定期的に会議を重ね、そこで生まれたアイデアをもとに、自治体と住民が一体となって取り組みを進めています。

プロジェクトのこれまでとこれからについて熱く語っていただきました。
池端さんが手にしているのは「麻布坂カレーMAP」。プロジェクト参加店の一覧が掲載されており、現時点で参加店舗は13店舗。つい先日の3月2日には、第5弾として3皿のカレーメニューが新たに登場しました。
麻布あみ城からは仙台坂にある韓国大使館にちなみ、ヤンニョムチキンをトッピングした「仙台坂カレー」と、甘さとスパイス、チキン南蛮の食感が楽しめる「けやき坂カレー」の販売がスタート。サスティナブルストア麻布島崎屋とグルテンフリーブランドnatulifが手がける「狸穴坂カレー」も登場し、3月29日に開催された「ロクサンひろばフェスタ」で初めて販売されました。
それぞれのカレーの開発秘話やみどころについては、今後の記事でご紹介していきます。
地元高校生の発想を事業へ導入!
オリジナルキャラクターや標柱デザインも担当
——早速、「麻布坂カレープロジェクト」の構想に至った経緯を教えてください。
池端さん:麻布地区総合支所では、「麻布の街の魅力をできるだけ多くの方に知ってもらいたい」「愛着を持ってもらいたい」という想いのもと、さまざまな事業に取り組んでいます。令和3年度から「地域事業活性化プロジェクト」を開始し、定期的に会議を重ねながら、区民の皆様のアイデアを活かした新たな魅力発信のコンテンツづくりを進めてきました。
さらに、広尾学園高校や六本木高校など、地元の高校生にも参加してもらい、若い感性を取り入れながらプロジェクトの可能性を広げています。
麻布坂カレーの前には、「麻布街ガチャ」というカプセルトイの企画も展開しています。こうした手に取って楽しめるコンテンツに加えて、「食」に関する経験も味わえる取り組みとしても面白いのではないかというアイデアが生まれたことが「麻布坂カレープロジェクト」のきっかけとなりました。
カレーのライスには、坂の名前が入った標柱をトッピングするルールがありますが、従来の標柱は墓標のような印象を持たれることもあり、新しいデザインへと一新されました。
広尾学園高校の生徒がデザインを手がけたオリジナルキャラクター「あざぶらし」をあしらい、親しみやすいデザインに生まれ変わっています。

各カレーには、広尾学園高校の生徒が考案した公式キャラクター「あざぶらし」のオリジナル標柱のアクリルキーホルダーがついてきます。
画像提供:港区麻布地区総合支所協働推進課

新たな標柱のキーホルダーは、一本一本に坂の個性が表現された、思わず集めたくなるチャーミングな仕上がりです。
※画像は港区公式サイトから引用
坂の由来と開発店舗の個性が詰まった
「麻布坂カレー」で街歩きをもっと楽しもう
——坂にカレーを組み合わせるというアイデアも、とても斬新ですよね。その発想はどのようにして生まれたのでしょうか。
池端さん:麻布といえば、大使館が多いことに加えて、坂道が多いのも特徴の1つです。この特徴を、何かグルメで生かせないかと考えたときに、全国で流行している「ダムカレー」がヒントとして挙がりました。そこから着想を得て、坂の由来や歴史を詰め込んだカレーを作ろうという方針に固まりました。街の成り立ちや文化を知るきっかけになればうれしいですね。カレーはお子さんからお年寄りまで親しまれている料理ですし、国籍や年齢に関わらず、多くの人に味わっていただきたいです。
——「麻布坂カレー」の開発に至ってはどのようなプロセスで進められていますか?
池端さん:まずは参加店を公募し、本プロジェクトの仲間を集めました。また、会議に参加している区民の皆様から馴染みのお店をご紹介いただき、プロジェクトへの参加をお声がけすることもあります。参加が決まると、各店舗から1~1.5㎞圏内にある身近な坂を選び、その坂の由来や歴史などをもとに着想を広げていきます。そこから、食材や盛り付け方などを各店舗で開発していただきます。メニュー開発が進んだ段階で、私たちも交えて試食会を行い、商品化へとつなげていく流れです。
——開発や調理の際のこだわりはどのような点にありますか。
池端さん:坂の由来や歴史からどのように着想を得て、それをカレーにどう落とし込んでいくかという点は、店舗が特に工夫を凝らしているところです。
たとえば、西麻布の飛飛飛(びびび)さんは、もともとキーマカレーを提供している店舗ですが、近くにある「なだれ坂」をモチーフに選びました。「なだれ」と聞くと、雪が崩れていく様子をイメージしますよね。そこから“崩しながら食べるカレー”にできたら面白いのではないか、というアイデアが生まれました。キーマカレーの具材に加え、お店でよく使われているマッシュルームを雪に見立て、高く盛り付けることで、なだれのように崩しながら味わうスタイルを表現しています。

辛さ10段階から選べる「なだれ坂カレー」 ※プレスリリースから引用
麻布笄軒 広尾本店で提供している「鉄砲坂カレー」というメニューも個性的です。鉄砲坂は江戸時代、坂のがけ下に幕府の鉄砲練習場があったことが名称の由来です。まさに鉄砲の形にごはんを盛り付け、鉄砲の弾を豆で表現しています。

ミシュラン星付きの名店「麻布笄軒 広尾本店」が手がける「鉄砲坂カレー」 ※プレスリリースから引用
—— 一皿一皿に坂の魅力が詰まっていて、私も実際に味わってみたくなりました!ダムカレーなど、ほかのご当地グルメにはない「麻布坂カレー」ならではの魅力は何でしょうか。
池端さん:ダムカレーはダムが山の中にあるのに対して、坂は街中にあるので、街歩きと一緒に楽しめるのがポイントです。また、坂ごとに由来が異なるため、その物語をいかにカレーに落とし込むかという点も、ダムカレーにはない魅力だと思います。また本プロジェクトに参加している店舗は、カレー専門店もあれば、図書館の食堂であったり、洋食屋や居酒屋であったりと、個性豊かです。それだけ各店舗が本プロジェクトに魅力を感じてくださっているのだと思いますし、そのため、多種多様な味わいや雰囲気が楽しめると思います。
——麻布坂カレーが10種類登場したことを機に、2025年には「麻布坂カレーフェスタ」も開催されましたね。こちらも周遊の効果がありそうです。
池端さん:そうですね。坂カレーをきっかけに、「この坂はどこにあるのだろう」「どのような景色が見えるのだろう」と実際に足を運んでいただくのも楽しみ方の1つです。また、「なだれ坂カレーを食べたので、次は南部坂カレーを食べに行こう」といったように、普段の活動範囲を飛び出して別のエリアへ足を運ぶきっかけにもなればと思い、今年も開催を予定しています。麻布全体を歩きながら、街の魅力を体感してもらえたらうれしいですね。
昨年は広尾学園高校の生徒の皆さんが、カレーフェスタのPR動画を制作してくれました。今後も、飲食店やプロジェクト参加メンバーと一体となって、イベントを盛り上げていきたいと考えています。
この投稿をInstagramで見る
——参加店のみなさんや実際に食べた方からの反響をお聞かせください。
池端さん:提供してくださっている飲食店の方々からは、「坂をテーマに新たなメニューを考えるのが新鮮で面白い」といったお声をいただいています。また、「メニューを考える過程で、改めて街のことに目を向けるきっかけになった」というお話もありました。一方で、カレーを食べた方からは、「カレーをきっかけに坂道を巡るのが楽しい」といったお声や、「坂の名前の由来を初めて知った」という驚きの声も寄せられています。
今後は、当初の目標である参加店舗30店を目指し、引き続きプロジェクトを進めていく予定です。
——麻布総合支所ではこの「麻布坂カレープロジェクト」に連携したSNSを活用した投稿企画も展開されています。こういった取り組みを通してどのように麻布の街の魅力を発信していきたいですか。
池端さん:「麻布の街に住んでいてよかった」「この街が好きになった」と感じていただきたいんですよね。そういった機運が高まるようなコンテンツをこれからも柔軟な発想の中で引き出していけたら良いなと考えています。
ちょうど3月23日から4月26日まで「公式SNSフォロー&リポストキャンペーン」を実施しています。まず公式InstagramやXをフォローし、対象の投稿をリポストでシェア、参加店舗で画面を提示し、対象の麻布坂カレーを注文すると、ステッカーがプレゼントされます。カレーごとに異なるデザインの「あざぶらし免許証風ステッカー」を集めながら、街歩きも楽しめる仕掛けです。
さらに、今回参加している10店舗のうち、イベント限定提供の狸穴坂カレーを除く9種類すべてのステッカーをコンプリートすると『あざぶらし免許証風ステッカー(レア)』を手に入れることができます。ぜひ麻布坂カレーとともに街の魅力を味わってみてください。

9種類コンプリートでもらえる「あざぶらし」免許証風ステッカー(レア)画像提供:港区麻布地区総合支所協働推進課

「麻布らしい」という言葉から誕生したキャラクター「あざぶらし」。画像提供:港区麻布地区総合支所協働推進課
個人的に印象に残ったのは、カレー専門店だけでなく、さまざまなジャンルの飲食店や図書館の食堂なども参加している点です。本プロジェクトを通じて、それぞれの店舗の新たな魅力が引き出されているのではないでしょうか。
また、麻布の坂道が単なる地形ではなく、それぞれの文化や歴史が今に息づく存在であることを実感しました。地元高校生をはじめとする区民の方々を巻き込みながら地域を盛り上げていく、その可能性と勢いが印象的なインタビューでした。これから麻布の街がどのように進化していくのか、今後の展開にも期待が高まります。

