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【港区のベンチャー企業】“事業承継の「比較サイト」をつくりたい ”M&Aの不透明さに挑む新サービス「株式会社Sirbe」

2026年3月19日

港区のベンチャー企業があつまる港区立産業振興センター。これまでたびたびこの施設に集うスタートアップの方々を紹介をしてきましたが、どうしてもまったく新しい事業を手掛ける事業者にばかりに注目してきてしまいました。

ですが、新しい企業が誕生する以上のスピードで、中小企業の廃業が続いています。

後継者不足が深刻化する日本の中小企業にとって、M&Aによる事業承継は重要な選択肢となっています。しかし一方で、仲介会社や専門家の数があまりにも多く、「誰に相談すればいいのか分からない」という経営者の声も少なくありません。

こうした状況に一石を投じるサービスが登場しました。2025年にリリースされた「MAny」です。

このサービスを立ち上げたのは、M&A業界での経験を持つ杉澤侑樹氏

同氏は、事業承継の現場で感じてきた課題をもとに、経営者と専門家をつなぐ新しいプラットフォームを港区産業振興センターを拠点に構築したそうです。

M&A業界の課題だった「見えにくさ」

最近、M&Aという言葉はかなり一般化してきたように思います。社用のメールアドレスには、売りたい・買いたいと言った覚えがないのに、様々なM&Aを補助する企業からの営業メールが毎日のように届いています。

「現在、中小企業庁のM&A支援機関登録制度に登録されているアドバイザーや仲介業者だけで3,000社以上あるんです。その中にはやはり、スモールサイズでやられている事業者さんだったり、大手から独立して立ち上げたばかりだったりといった、人員が足りていないところがあります」

取材に応じてくださった株式会社Sirbe代表取締役の杉澤氏

杉澤氏は銀行勤務を経て、M&Aコンサルティング会社で約5年間、企業の買収・売却を支援してきた経歴をもちます。その中で出会った企業の、M&A後を支援する仕事に関わったことが、独立のきっかけとなったそうです。

経営統合(PMI)というのですけれどね。当時私が担当させていただいたクライアントが、M&Aを実行されたんです。M&Aは、買って終わりではなくて、そのあといかに両社にとってシナジーを最大化していくかということが課題です。なので、当時の担当者だった私の所に“M&A後の経営統合のステージも一緒に見て欲しい”と相談が来ました。そこで、クライアントの会社に専務として所属して、継続的に支援することとなりました

杉澤さんはこのことをきっかけに、PMIを行いつつ、自身の独立開業を果すことになります。こうして、2023年11月、株式会社Sirbeが誕生しました。

「当初は、M&A仲介会社の資料作成や企業評価などを代行するバックオフィス支援を行っていました。冒頭でもご説明しましたが中小規模のM&A仲介事業者様には人的リソースが足りません。M&A仲介事業では、クライアントから正式に依頼を受けた際に、企業評価表を作成したり、企業紹介の概要書を作るといった事務作業が大量に発生するのですが、それらを作る人手も足りないのです。それを私のような経験者にアウトソーシングできる、というサービスを行っていました」

この事業を設立後1期行い、2期目に入った段階でもっと違った形で、事業承継の手伝いはできないかと考え始めたそうです。

「バックオフィス業務はどれだけやっても労働集約型ですので、スケールしていかないんです。私が請けるか請けないかだけで、会社の売上が決まってしまいます」

もやもやしていた丁度その時、PMIに携わっている会社の事業のなかで、今回のサービスを開始するきっかけとなる機会に出会ったそうです。

「私は、いわゆる専門家的な立ち位置として、事業承継に関するパンフレットの制作とか、事例集の制作とかに携わらせていただく機会がありました。その業務で、中小企業庁の担当課とも一緒にやらせていただくことになり、担当の方と話す中で、国として今課題に感じているその事業承継の課題というものがはっきりと見えてきました。たとえば、先ほども申し上げた通り、M&Aの支援機関登録者数は3,000社超と多いのに、どこがいいのか経営者が比較検討する手段がないことや、不誠実な業者さんや不誠実な経営者と出会うことによって、失敗してしまうM&Aが増加してきているといったことです。国としてもそのあたりを是正しないといけないとは感じているそうですが、なかなか打つ手がないとのことでした」

実際、そこには業界的な問題もあるのだそう。M&A仲介業者は売り手と買い手をマッチングさせて成功報酬を受け取るという業態ですが、自分たちだけで常にあたらしい売り手と買い手を集めきることができません。そこで、M&A仲介業者にそういった希望のある事業者を紹介をするブローカーがいます。

このブローカーは、M&A仲介業者からパーセンテージに応じた報酬を貰うそうです。そうなると、ブローカーは報酬の多いM&A仲介事業者に紹介するほうが効率がよいということになり、売り手買い手にとって本当に良い仲介事業者を選んで紹介しようという気持ちが薄くなってしまいます。

そこで杉澤氏は考えました。

「だったら、M&Aを検討する事業者が、自分自身でM&Aの仲介事業者を適切な比較検討ができる場を作ればいいのではないか。誠実な取引を行わないと淘汰されてしまうような競争環境を作っていけば、売り手買い手、双方が納得できるM&Aが実現できるのではないか

こうして誕生したのが、事業承継の専門家を比較できるプラットフォーム「MAny」でした。

事業を売りたい経営者が、M&Aに関する情報収集から相談先の比較検討までを無料で行うことができるサービス「MAny」

利用料は経営者無料。専門家はマッチング成立時のみ5万円

中小企業庁の担当者との会話から、杉澤さんがビジネスを思いついたのが2024年8月でした。そこから、どういうサービスがあると中小企業の経営者さんが安心するか、杉澤さんは構想を固めていきました。同時に社内でシステムの開発も開始し、2025年の4月にはなんとリリースしてしまったのです。この速度感は、スタートアップ企業の面目躍如といったところでしょうか。

自分の目で人を見るのが肝要と語る杉澤さん

「いわゆるマッチングサービスですので、肝となるのは、会員企業の数になります。M&A仲介事業者や専門家の勧誘というところは、私が全部一人で行いました。このサービスは、やはり中小企業側と専門家側、両方の存在があって初めて成り立つものなんです。どちらか一方だけでは、なかなか回っていきません。売り手の方々はお困りだからオーガニック流入が見込めますが、専門家の方々は私自身が直接お話して、信頼のおける人に参加していただきました。私の前職時代のつながりが大きかったですね。独立して事業をされている先輩方に声をかけたり、当時お付き合いのあった専門業者の方々に『こういうサービスを始めるので、よかったら参画していただけませんか』とお願いしたりして、少しずつ。そうすると、今度はその方々から『知り合いにも信頼できる会社があるので、一度つないでもいいですか』といった形でご紹介をいただくようになりまして。いわば“芋づる式”に広がっていったのが最初の流れですね。

さらに、そうした動きが少しずつ広がってくると、今度はインターネットでサービスを見つけた方から『自分たちも利用したいのですが』とお問い合わせをいただくようになりました。そんな形で、じわじわと広がってきているという状況です」

三方良しの取引の場を作るという杉澤さんの思想は、あらゆるところで徹底しています。
一般的なM&A紹介ビジネスでは、紹介者が成功報酬の一部を受け取るケースが多いですが、MAnyでは、登録料や月額料金は一切なしにしました。費用が発生するのは、専門家と売り手企業のマッチングが成立したときのみ。その金額も一律5万円と格安です。

つまり、

  • 経営者は無料で専門家にM&Aについて相談できる

  • 専門家は成果が出たときだけ費用を支払う

というシンプルな仕組みになっています。

また、最終的にどの専門家を選ぶかは経営者自身が判断するため、プラットフォーム側であるSirbeが恣意的に介入することはありません。

サービス開始後、利用者からは興味深い声が寄せられているそうです。ある経営者は、複数の専門家と話をする中で、それまで検討していなかった承継方法に出会い、会社の方向性を大きく転換しました。
「今まで興味もなかった方法でしたが、話を聞いてみたら一番魅力的だと分かりました」

と感謝を伝えられたそうです。こうした気づきが生まれるのも、複数の専門家を比較できる環境があるからです。現在のマッチング件数は月10件ほど。月の売上でいうと50万円程度ですが、杉澤氏は将来的に月400件規模まで拡大できる可能性があると見ています。

とはいえ、これだけだと苦労や運営の割に合わないのでは、と率直にマネタイズへの疑問をぶつけてみたところ、こういった事業を行うことによって、国や地方自治体などとのパイプが築ける。そちらへアドバイザーとして協力することによって、別の形の事業につなげているとのこと。さすがの先見性です。

MAnyというビジネスで杉澤氏が描く未来は明確です。

「家を探すときにSUUMOやリバプルなどの不動産仲介業者のサイトで検索をするように、事業承継を考えたらまずMAnyを見る。そういう存在になりたいのです」

そのために、現在はAIを活用した機能開発も進めています。例えば、「専門家への質問の整理」「情報比較のサポート」「経営者の価値観に合った選択肢の提示」などを、生成AIにサポートしてもらうといった機能だ。

事業承継は、多くの経営者にとって人生で一度あるかないかの重要な決断であるのに、情報は分散しており、何を基準に判断すればいいのか分かりにくいという問題があります。家を買う際や、車を購入する際にはあれだけサポートが充実しているのだから、事業承継の「最初の入口」を担うサービスとして成長を目指しています。

創業の拠点に“港区立産業振興センター”を選んだ理由

杉澤さんが、株式会社Sirbeを港区立産業振興センターに投棄して開業しようとしたのはどうしてなのでしょう。

「事業立ち上げ直後はやはり資産もあまりないなかで、モニター付きの会議室を用意したりとか、必要な書籍を用意したりとか、まあ色々とお金がかかるんです。そのようななかで、これだけの設備が共有で使用できるというのは魅力的でした。ここの下の階の産業振興課さんで、色々と創業の相談をしていた際に、ちょうどここの登録枠が空いているという話が出たので、渡りに船で募集させていただきましたね。また、私は自宅を仕事場にして仕事をしていました。そのような事業者や、バーチャルオフィスを構えている事業者は、金融機関になかなか融資のご相談はできないんですよね。ですが、ここは公的な施設ですので事業の実態性が確認できる。きちんと金融機関にお話を聞いていただけたのも助かりました」

産業振興センターは様々な業態の事業者様が集まっていらっしゃいます。なにか、ここでの出会いがMAnyのサービスに繋がったという事例はあるのでしょうか?

それは、まだないんですよね。そういうことが生まれたら面白いなとは思うんですが、皆さんそれぞれ黙々と仕事をされているので、ふらっとコミュニケーションが生まれるのは難しいのかなという印象ですね」

産業振興センターで行われているイベントについてお伝えした所、面白そうに話を聞いてくださいました

いざまちとしては、過去、産業振興センターで開催されているイベントを取材させていただいていたので意外な答え。一応、センターとして色々なレクリエーションがあるということをお伝えしつつ、どういったサービスがあれば嬉しいかということも聞いてみました。

「今の話にもつながるんですが、例えば3Dプリンターなどクリエイティブ系の共有設備があって、あれはすごく魅力的だと思うんです。それにこのスペース自体もすごく綺麗ですし。でも、そこで仕事をしている人たちと交流することが難しい。例えば入口付近などに、気軽にコーヒーを飲めるスペースがあればいいなと思うことはありますね。ワンコインのコーヒーメーカーのようなものがあって、ちょっと休憩する人が自然に集まるような場所ですね。

今もコーヒーは自由に飲めるんですが、それぞれ自分で作って自分の席で飲む形なので、カフェテリアのようなスペースがあれば雑談も生まれるんじゃないかな、と」

なるほど。「ここにいる人は話しかけてもOK」というような場所をあらかじめ設定してしまうということですね。

「そうですね。あとは、横のつながりを作れるような掲示板みたいなものがあっても面白いと思います。
例えば“株式会社Sirbeでこういうサービスをやっています。興味があれば杉澤までご連絡ください”といった案内が出せる場所ですね」

せっかく異業種の方々が集まっている施設ですし、産業振興センターさん、ご検討してみてはいかがですか?

今回、杉澤さんとお話をしていて感じたのは、とても“優しい”事業だなということです。会社を残したいけれどM&Aに不安を抱えている人。事業拡大のために他社の技術を欲している人。彼らを繋ぐことで日本を元気にしたい専門家。そのすべての人が満足いく形を作ることで、お金では買えない信頼を得る杉澤さん。

リーマンショック以降、日本人はKPIという数値目標に翻弄されて、お金では測れない価値のありがたさを忘れてしまっているような気がします。正直な所、動く金額が大きいM&Aはそんな金満の世の極北に近いと思い込んでいました。ですが、杉澤さんと話をしていて、本質的に本当に困っている人を助けたいという善意で成り立つ事業だということがよくわかりました。

確かにM&Aは、事業という要素に振れ過ぎてしまっていました。その流れを元の人助けの方に戻したいという杉澤さんの取り組みを、これから応援していきたいと思いました。

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