【明治記念館】散策も休憩も自由!?明治記念館はゆったりくつろげる癒しの空間
敷地面積約1000坪の広大な庭園をぐるり散策
落ち葉一つ落ちていない広大な芝生の庭園を眺めながら、コーヒーを一杯。周囲には高い建物も見当たらず、ただ静かな時間が過ぎていく……。こんな場所が、東京メトロ青山一丁目駅から徒歩6分、JRの信濃町駅からは徒歩3分しか離れていない場所にあります。
ここは「明治記念館」。明治神宮外苑の一角に佇み、都内屈指の規模を誇る結婚式場です。しかし、青山一丁目駅近辺で10年近く働いている私ですら、明治記念館の中を自由に見学できるということは知りませんでした。都心なのに広い空を楽しめる庭園がここにはあるのです。
「いったい何の施設なのか、正門の前を通るだけでは分からないと言われることが当館の課題の一つなんです……」
と、今回取材の対応をして下さった明治記念館総合企画課の中川さん。
たしかに、中を覗くには、警備員さんのいらっしゃる正門を進んで正面玄関までたどり着かねばなりませんので勝手に入っては怒られる、と思い込んでいました。
ラウンジ「kinkei」と憲法記念館について
改めて、明治記念館とはどのような施設なのでしょうか。明治記念館本館の誕生の経緯は、今から約150年前の明治6(1873)年5月まで遡ります。
当時、天皇陛下が住まわれていた西ノ丸皇居(旧江戸城西ノ丸御殿)が火事に見舞われ焼失してしまいました。急遽建てられた仮の御所を赤坂仮皇居と呼びます。赤坂仮皇居が建てられたのは、旧紀州徳川家の江戸屋敷跡(現在の迎賓館赤坂離宮)でした。
赤坂仮皇居の御会食所として、明治14(1881)年10月に作られた建物が、現在、明治記念館の本館となっている「憲法記念館」です。
名前の由来となったのは、明治21(1888)年6月にこの建物内で行われた「大日本帝国憲法草案審議」です。この会議では、わが国初の近代的な憲法である「大日本帝国憲法」について明治天皇ご臨席のもと草案が詰められました。
「大日本帝国憲法草案審議」が行われていた会場は、現在結婚式などのイベントが入っていないときはラウンジとして一般開放されているラウンジ「kinkei」となります。
初代枢密院議長として、大日本帝国憲法の制定に尽力したのは、初代内閣総理大臣も務めた伊藤博文でした。
そのため憲法記念館は明治41(1908)年、伊藤博文に下賜され、大井町の博文邸に移築されます。明治天皇が崩御し大正時代に入ると、明治神宮外苑の造営がはじまりました。伊藤家は「明治天皇から下賜された建物を、明治神宮に献納したい」と申し出て、大正7(1918)年、憲法記念館は現在の場所に再移築されました。
昭和22(1947)年には明治神宮の総合結婚式場として生まれ変わりました。常にお客様のことを考え、新しい調度や設備を取り入れてはいるものの、そこかしこに歴史の重みを感じさせる明治記念館本館・憲法記念館は、令和2(2020)年に、「旧赤坂仮皇居御会食所」として、東京都指定有形文化財に指定されています。
明治記念館の見所を紹介
まずは、正面玄関から入って真っ直ぐに広がるロビー。
このロビー、よくよく見ると壁に絵画が展示されていることをお気づきでしょうか。実は明治記念館の館内各所に掲示されており、自由に見学できるのです。
「美術館のような感じでご来館されのんびり過ごされている方もいらっしゃいます」
と、中川さん。ロビーには、庭園をのんびり眺められる一人掛けのソファーも複数設置されていました。
ちなみに、明治記念館の中にはお土産としてお菓子の購入ができるショップも併設されていることをご存知でしたか?
明治記念館のパティシエが作る、焼き菓子やスイーツを購入することができます。
「コロナ禍からオンラインショップの商品を幅広く展開した結果、お菓子の販売はお客様よりご好評頂いております。特に、クッキーやパウンドケーキは人気となっています」
実は、青山一丁目駅付近にはお菓子屋さんが少なく、取引先に手土産をもってご挨拶へ行く際に困っていました。明治記念館でこんないろいろな種類のお菓子が買えると知れたのは、近隣で働くサラリーマンの一人としてとても嬉しい発見でした!
ちなみに、現在明治記念館の正面玄関は、新たに作られた建物の方に用意されていますが、当初の玄関は、こちらになるそうです。
さらに、館内にあるレストラン、鮨・天麩羅・鉄板焼「羽衣」は、ふらりと訪れてお食事だけの利用もできるのだそう。とはいえ、それなりの値段は覚悟しなければならない……とおもったところ、「羽衣」の平日限定ランチ(限定10食)は2400円と、破格のリーズナブルさ。これは、お給料日のランチなど、特別な日には、ふらっと訪れて少し贅沢をしても良いかも!?
結婚式場の明治記念館というイメージからの脱却
明治記念館といえばやはり結婚式場というイメージでしたので、ここまで一般客に向けて開放しているのは意外でした。改めて中川さんに、どうして伝統ある明治記念館が、このような施策を行っているのかお話を伺いました。
「明治記念館はご存じの通り、明治神宮の迎賓施設です。特に結婚式の披露宴会場で知られていますが、明治神宮は神社ですので神前挙式という形式で挙式を行うことになります。日本では、神前挙式を希望される方の割合は約17%。しかも当館ですと挙式希望者のほとんどが神宮での挙式を希望されます。なので明治記念館を実際に訪れて明治記念館の庭園の儀式殿で結婚式を挙げる人はかなり限られています。せっかく素晴らしい建物があるのに、利用客が限定されていることに課題を感じていました」
実際に、明治記念館に新たに設置された庭園の儀式殿は神前挙式らしさを廃して、結婚式を挙げるカップルが喜ぶ和装もドレスもよく映える雰囲気を意識されたそうです。
結婚式を挙げるカップルの数が時代とともに減っているという問題もあるそうです。家族だけを集めた小規模な式や、結婚式を行わないという選択肢を取るカップルも増えている中で、明治記念館に愛着を持ってもらうにはどうすればいいか。明治記念館では、広大な庭園を使ったフォトウェディングなども始めており、結婚式は行なわないけれども記念の写真は撮りたいといったカップルの声にこたえるようにしはじめているそうです。事前に打ち合わせをしなくても、当日来ていただいて着物をさっと選び、1日で撮影まで完結するプランも用意しているとのこと。
「これまで、明治記念館で結婚式を挙げてくださったカップルはおよそ21万組。中には、結婚記念日の度に当館を訪れて下さる方もいらっしゃいます。また、新たに誕生したお子様を連れてきてくれたり、お孫様を連れてきてくださるという方も。歴史がある当館ならではだと思います。このように、明治記念館ならではの特長を考えた時に、常にご家族の思い出と繋がってきたことがあるなと。そのため、まずは当館に愛着を持っていただき、結婚式以外でもご家族で訪れる場として当館のことを思い出してもらえるよう、さまざまな施策を打っているのです。明治記念館のことを若い世代の方にも知っていただければ、もしかしたらご自分が結婚式を挙げる際に、当館を選んでくれるかもしれませんしね」
お中元やお歳暮の時期に前述のお菓子の通販を強めにPRしてみたり、百貨店の企画店などに出店をしてみたりといったことも、全ては明治記念館という場所を若い方に知っていただくため。ラウンジ「kinkei」では、春の時期にはいちごフェアを行うなど、日常的に足を運んでもらえるようなイベントも行っています。
また、2018年ごろからは、明治記念館の公式アプリ“明治記念館ファミリーツリーポイント”も始めています。これまで、明治記念館で結婚式を行ったカップルの結婚記念日などに、館内レストランのお食事優待を行うサービスがありましたが、その日に日程の都合がつかなかった方は、そこでご縁が切れてしまうという問題もありました。そこで、ポイントアプリにして、館内でのお菓子の購入や、レストラン利用でもポイントがたまる形式にし、訪れた人が、いつでもおトクに明治記念館をご利用できる形に変更したそうです。
「アプリを用いた情報発信も増えています。メルマガやSNSの発信も行っていましたが、今はこのアプリがお客様と一番コミュニケーションをとりやすいツールです。ポイントはレストランのほか、写真撮影で貯めることもできますので、記念日などでご家族でお料理を楽しんでいただいて記念撮影もしていただいて、たまったポイントでお土産を買ったりという使い方をしていただいております」
と、中川さん。知名度向上は、もっと遠回りな手段からも行っていらっしゃいます。学校と協力し高校生のテーブルマナー講座の授業を行ったり、ドラマやバラエティ番組の撮影場所としてできるだけ協力したりして、性別や年齢を問わず、訪れやすい建物であることをアピールされているようです。
「5月になると、庭園を開放して期間限定ビアテラスも開催しています。お仕事帰りなど、ぜひいらっしゃってくださいね」
近代的なサービスを提供することと建物を保存するという二軸
とはいえ、明治記念館本館は東京都の指定文化財でもあるため、改革をしつつ常に保存という問題と向き合わなければなりません。庭園への出入り口をスロープに変えたり、館内の段差を廃止てバリアフリー化にしたりとあちこち改修を施してはいますが、手を入れられる所と手を入れられない所があるそう。ラウンジ「kinkei」の豪華な壁紙も、開館以来なんどか補修が行われているそうです。
2024年11月1日に迎える開館77周年に向けて、今年は館内の一部リニューアルも予定されているそう。なかでも共有スペースと2階の披露宴会場は大きく変更になるのだとか。
「当館は、年末年始と夏の一部期間をのぞき、基本的に年中無休でやっています。なので、こうしたリニューアルが、同時に建物のメンテナンス期間にもなるんです。これから先、何十年も先まで明治記念館という建物が残り、当館で誕生した家族の方の思い出を繋いでいくために、サービスの充実と建物の保全の両立を意識し続けたいです」
高級宴会場だとおもっていた明治記念館でしたが、広々とした庭園を眺めながらコーヒーを飲んだり、ちょっと珍しいスイーツを購入したり、のんびり絵画鑑賞をしたりと、実際に入ってみるとふらりと訪れた観光客でも楽しめる施設であることがわかりました。
ただ、こうした充実のサービスの裏には、明治記念館という建物とその思い出を守るため、数々の新しいサービスを生み出しているスタッフの方々の努力があることを知れた、そんな取材となりました。
改めて、中川さん、ありがとうございました。
【明治記念館】
住所:〒107-8507 東京都港区元赤坂2-2-23
定休日:年末年始休、夏期メンテナンス有
アクセス:JR信濃町駅より徒歩3分、東京メトロ半蔵門線/銀座線・都営地下鉄大江戸線青山一丁目駅「2番出口」より徒歩6分