町会・自治会活動を知るためのまち歩きで見つけた町を愛する想いの数々
町が、勝手にきれいになったり、自動的にお祭りが始まるなどということはありません。
忘れがちですが、そこには必ず清掃をしたりお祭りの準備をされたりしている方がいらっしゃいます。
自分たちが暮らす町をより素晴らしい場所にする町会・自治会活動。ですが先日、芝浦一丁目町会さんの町会イベントに参加した際に、新しく町へやってきた住民の方々に町会へ入ってもらうことはなかなか大変だという気づきを得ました。
高齢の方だけに自治活動を任せてしまう現状は、改めていかなければなりません。
そのようなことを考えていたところ、高輪地区総合支所さんが面白い取り組みをされているのを発見しました。
今回は、2024年6月29日に「高輪地区総合支所」にて開催された『町会・自治会・マンション交流活性化プロジェクト 地域の「潤滑油」となる講座』の様子をご紹介させていただきます。
住民が町会・自治会と繋がる空間を行政がお手伝い
人口の多い都心部で、地域住民の方々と繋がるきっかけを作ることが難しいのは、みなさんも感じていらっしゃるのではないでしょうか。
これは、町会・自治会を運営されている方々も同じだそうです。地域に新しく引っ越してきた方々とどのように交わればいいか、新規住民側も町会・自治会側も悩んでいらっしゃいます。
今回お邪魔した『町会・自治会・マンション交流活性化プロジェクト 地域の「潤滑油」となる講座』は、高輪地区総合支所協働推進課が、こうした地域の需要を踏まえて独自に始めた取り組みの一つです。
講座の目的は、町会・自治会や地域の活動に関わりたいという方々に、きっかけを提供することだそうです。実際参加者の年齢は40代~50代が半数以上で、思った以上に若い方が、自分の暮らす町の自治活動に興味を持たれていて驚きました。若い方々への呼びかけは、意識したことだということで、協働推進課のご担当・栗原さんも喜んでいらっしゃいました。
高輪地区総合支所協働推進課では、毎年度、本講座の受講生を約20名ほど募集されているそうです。私が参加したのは、今年度の2回目の講座。町会・自治会がどのような活動をしているのか、受講者の方とまち歩きをしながら、見てみようというものでした。
まち歩きを始める前に、前回の振り返りとして受講者の方々が感じていた町会・自治会への印象をまとめてくださいました。
・長老がいるイメージで、新しく入る込める場ではない
・既にコミュニティーが出来上がっていて参加しにくい
・町会のお祭りはたびたび見るが、町会が運営しているという認識は持っていない
・火の用心などの夜警活動はありがたいと思うが、自分には関係がないとも思う
・とはいえ、災害のことを考えると繋がりが欲しい
・町会・自治会への入会方法が分かりにくい
・興味があってもなかなか関わりづらい
実は、参加前少し緊張していました。果たして、都会の自治活動とは何をやっているのだろう程度の浅い考えで取材を申し込んだ私が、ついていける講座なのだろうかと。ですが、本講座を受けてみようという自治活動へ積極的な方々も、町会・自治会活動に関しての印象は私と大差ないようで少し安心しました。
「町会・自治会といった活動は住民相互により結成された団体で区と協働していく重要なパートナー。ボランティア、NPO、社会福祉協議会などの組織と形態は異なるが、”地元を良くしよう、地元のために活動しよう”という目的は同じ団体です」
と、区の担当者から補足説明がありました。この言葉の意味を、私はこの後の取材で深く実感することとなりました。
町の暮らしと安全が守られているのは自治活動があってこそ
事前説明が終わると、まち歩きを行うペアが発表されました。このペアは申込み時点で、住所の近い方々どうしになるように協働推進課の方で調整をされたそうです。後々、町会・自治会活動に参加されるようになった際、ご近所同士は顔を合わせる機会も増えます。だから、今回のまち歩きを通じながらお話をすることで、仲良くなってもらいたいという狙いだと説明がありました。
今回のコースは、白金高輪駅から、白金の方へ向かい、その後三田方面へ向かい、「高輪地区総合支所」に戻ってくるという約1.3㎞です。
まず最初に説明を受けたのが、白金高輪駅直結の高層マンション「白金タワー」です。現在約580世帯が入居しているタワーマンションですが、元々は町工場があったところなのだそう。
「白金高輪エリアは、町工場が多かったエリアなんです。住宅街へ変貌した現在も、ビルの1階などに工場がそのまま入っている事業者さんが多くいらっしゃいます」
と、区の担当者からご説明がありました。高級住宅街のイメージが強い白金高輪が、元々町工場地帯だったとは意外です。
こちらの白金タワーは、住民の方々が町会活動にも積極的に協力をしてくださっているそうで、建物前の私道部分には「白高(はくたか)町会」の町会掲示板も設置されていました。
ちなみに、町中で見かけるこうした掲示板のなかには、町会が設置する掲示板と区が設置する掲示板の2種類があることをご存じでしょうか。港区が設置する掲示板は、掲示板上部が緑色枠で囲まれているそうです。港区の掲示板は、基本的には区からの情報が掲示されているのですが、全体の4分の1のスペースには、地元町会の情報を掲示することが認められているとのことでした。
都心部では大規模タワーマンション開発が続いていますが、一棟できるだけで約580戸もの世帯が増えると考えると受け入れる区も町会も大変です。
「だから、町会としても定期的にタワーマンションの管理会社さんなどと連絡を取り、関係を維持していく必要があります。町の清掃活動をしていたら、それを見ていたマンションの管理人さんと仲良くなり、町会へ参加してくれたこともありました。」
と区担当者は仰っていました。人知れず、住民のために骨を折っている町会の方々にただただ頭が下がります。
次に訪れたのは、「白金志田町児童遊園」。いたって普通の公園ですが、緊急時には近隣の方々の避難所となります。この公園の隅には、一棟、公園でよく見る倉庫が建っていました。こうした倉庫は、地元のお祭りのお神輿や清掃道具が入っているものだと勝手に思い込んでいたのですが
実際のところ、中には町会が備蓄した緊急時の物資が保管されているそうです。大きな災害が起こった時に、ご近所の方々を助けるための備蓄です。ですが、白金・高輪地区ではタワーマンションが増えて住民が増加したため、備蓄量が不足してきたのが課題なのだとか。
その後、タワーマンションが立ち並ぶエリアを抜けて向かったのは、古くからの建物の残る細い路地。この辺りは「三田松坂町会」が管理されているそうです。付近には、明治時代から立っているような銅壁が特徴的な建物もあり、これが同じ白金高輪エリアかと驚くようなのどかな雰囲気です。
この一帯には、外から死角となって見えないような細い路地がたくさん残っています。そこで、防犯用の灯体を用意したり、防犯カメラを設置するのも町会の活動なのだそうです。
町中の防犯カメラは、警察か行政の管轄だと思っていたので驚きました。こうした防犯活動を行いながらも、公園や路肩の花壇の世話を行い、地元のイベントを企画したりと、町会・自治会は、気が付かない所で我々の生活を支えてくれている重要なインフラなのだと、はじめて気が付きました。
ディスカッションで見えてきた町の姿
まち歩きが終わった後、参加者全員でまち歩きで気付いたことを話し合う場が設けられました。私も輪へ加えてもらい、参加者の方にお話しを伺うことができました。
私が驚いた点はもちろんですが、その他にも「町会によっては自前の会館をお持ちだということに驚いた」、「公園に防災倉庫があることを知れたので、これからは伝える側に回りたい」、「タワーマンションに500世帯も暮らしているのに白金エリアの通りは人通りが少なく、静か。肌感覚と違う」など、さまざまな感想が出てきました。
私が印象に残ったのは、
「白金にも情緒が残る通りがあるのに驚いた」
「白金がどう変わっていったのか知れた面白さがあった」
と、いうご意見です。外から来た私が驚いた路地ですが、地元で暮らしている方も知らなかったようです。同時に、
「再開発であのような情緒のある通りがなくなっていくと聞いて悲しい」
という言葉も心に残りました。あの路地の通りに暮らしている古くからの住人の方々の活動が、暮らしやすい白金・高輪地区を守り続けてきてくれたのでしょう。
だからこそ、町の姿が変わったとしても、これからの世代が地元の想いを引き継いでいかなければならないなと。
こうした意見を一通り聞いた進行役の方は、先日、能登の被災地へお手伝いに行った時の体験を話してくださいました。
「珠洲市の被災地で、避難所を運営している方とお話をする機会がありました。避難所の活動はまず住民の安否確認からはじまりますが、そういったことは、地域のことを把握している町内会長さんを中心として行われていました。市役所だけではできないところを、町会・自治会の方々がリーダーシップをとって行ってくれています。受講者の皆さんのなかから、次の地域のリーダーとなる方が出てくれると嬉しいです」
高輪地区総合支所協働推進課では、これから受講者の方々に対して実際に地元の町会の方々と対面する機会を設けたり、地元の活動に参加をしたりという場を提供されていく予定とのことでした。
私たちの暮らしの多くの部分が、地元を良くしたいという誰かの想いによって支えられていることを痛感するまち歩きとなりました。
と、同時に、私もいずれは”誰か”になることが必要なのだと、決意を新たにした次第です。