いざまちローディング画面

駅前で清掃活動を行っていたのは、新橋の飲食店を陰から支えるユニフォーム店⁉

2025年5月30日

いつもきれいな新橋駅の裏で行われていることとは?

日本有数の飲み屋街・新橋連日どんちゃん騒ぎが行われている割には、駅前がきれいだと思ったことはありませんか?

これは地元に暮らす方々や、駅員さん、お店の従業員さんが、連日清掃に勤しんでくれているおかげです。

5月某日、定期的に駅前清掃を始めたというユニフォーム会社・株式会社三光白衣さんから、「いざまちさんも清掃へ参加しませんか?」とご招待を受けたので、活動に密着させていただきました

SL前にゴミ袋と火ばさみを手にした従業員の皆さんが集まりました

朝の9時30分。まだまだ、出勤途中のサラリーマンでごった返している時間。三光白衣の従業員の皆さんがSL広場に集まり清掃活動が始まりました。

「今日はイベントがあるため広場の中央部分は掃除できませんけれど、大事なのは広場の隅部分です。風に飛ばされたゴミが吹きだまっているんですよ

とお話をしてくださったのは、三光白衣営業本部の沼田さん。

側溝のふたの隙間などはゴミが見落とされがちです

 

落ち葉の下からも、誰かが捨てた紙くずが

駅前から始まった清掃活動は、北に新橋駅日比谷口前交差点まで進んでいったあと、外堀通り沿いに西へ、道沿いにある三光白衣の新橋店へと向かって続けられていきました。

舗装された部分はきれいでも、街路樹の根元などに紙ごみが残っています

 

路上喫煙は禁止されているはずなのに、こんなところに吸い殻が!

ちなみに近年は、飲み終わったあとのお酒の空き缶を放置する事例が増えているそうです。

「日本は外国と異なり、地下鉄サリン事件以降路上からゴミ箱が撤廃されてしまいましたからねえ。悪気はないのでしょうけれど、町会のゴミ捨て場とかに空き缶を捨てて行ってしまう外国人も増えましたね

と沼田さんは教えてくれました。オーバーツーリズムの弊害がそのような形で出ているんですね。

そもそも三光白衣が清掃活動をはじめたわけ

45年前から新橋にもお店を構える三光白衣さん。一体どういったきっかけで清掃活動を始めたのでしょう。

「今日、一緒に歩いてもらって分かったと思うんですが、飲食店がこれだけ集中しているエリアなのに意外と町がきれいでしょ。昔から新橋には、町の清掃活動をしている方がいらっしゃるんです。中には会社の事業の一環として、清掃を業務に組み込んでいる企業さんもいらっしゃるようです。当店は約45年前から、コックコートなどのユニフォームを新橋の飲食店へ卸しているユニフォーム専門店です。そんな新橋店が今年45年を迎えるにあたり、新橋という街にご恩返しをしようと考え、今年度から清掃活動を開始したのです」

お話を伺った取締役社長の臂 幸宏(ひじ ゆきひろ)さん

三光白衣取締役社長の臂さんは、そう教えてくださいました。

三光白衣は、山手線沿線沿いに5店舗を構える業務用ユニフォームの専門店です。創業は1963 年。「日東白衣」という名前で新宿に創業しました。コンセプトは、飲食店の制服一式を取りそろえるお店、でした。

創業当初の日東白衣 写真提供:株式会社三光白衣

「大手企業のユニフォームは大きな会社に一括で発注しますが、小さな自営業のお店ではそんなことできません。必要となったらその都度発注していくのが一般的です。今もそうですが、当時から新宿には個人経営の飲食店がたくさん集まっていましたので、そのようなお店に向けて、小ロットから注文できるユニフォーム店を開こうというのが、創業者の狙いだったそうです」

お店があったのは新宿三光町。この町名は1978年に消滅してしまいましたが現在の歌舞伎町から新宿5丁目にかけてです。

1968 年、この三光町にあった日東白衣は株式会社三光白衣を設立しました。今は失われた町名が、会社名として今も残っています。

電話場番号の下四桁はしなよい(4741)のごろ合わせだったそう

「通りに面して大きな看板を出していたため、“三光白衣”という名前は、新宿の界隈で知られていました。伊勢丹に行くバイヤーさんなんかも、ああ、あの看板の!と当社の名前だけは認識してくれていたそうです。」

町のユニフォーム専門店は色々なお店の方に喜ばれました。三光白衣は順調に事業を拡大し、新宿のようにユニフォーム需要がある小規模事業者が集まるエリア、渋谷、新橋、上野、池袋と次々とお店を出すことになりました。

「現在では、弊社も全国チェーン規模の大きな事業者さんとの引き合いを抱えていますが、やはり創業当初から、ご愛顧いただいている小規模事業者の方々の助けは大きいんです。だから、弊社では実店舗というところに拘っています。ユニフォームが必要となった時に、すぐに駆け込んで買っていただける拠点を構えることが大事なんです」

急なコックコートの破れや、短期バイト雇用などで緊急に変えが必要となったとき、「あそこのお店に行けばあるか」と安心していただけることが、三光白衣さんの強みなんですね。

「気が付いたら、山手線の圏内で複数店舗を構えているユニフォーム業者は、弊社くらいのものになってしまっていました」

創業時からのコンセプトが、会社の売りになっていたそうです。ちなみに、お店を訪れてくる方を大切にしていく中で自然と産まれてきたサービスがそのままオリジナリティとなったものの中に、店内で行う簡単な裾上げやほつれの修繕があります。

「ご説明した通り、当店を利用するお客様の多くは、何らかの緊急事態でいらっしゃる場合が多いんです。破れやほつれを開店までに直さなければいけないというお客様に、縫製工場に預けますのでお時間下さい、というわけにはいかないんです。なので、創業当時から細かな直しは、店内で行えるようにしています」

このサービスは新橋のお店でも行われているそうです。

しかし、店名が白衣ということでコックコートや医療用の制服をイメージしていたのですが、店内を見せてもらった限りでは、工事現場用の作業着のほうが多く見受けられました。

新橋店の店内の様子。

三光白衣 新橋店の外観。ちなみに新橋の再開発に伴い近所で移転を繰り返し、現在の店舗は3代目だそう

白衣に関しては、日光に当てると、白がくすんでしまって清潔感が失われてしまうんですよ。だから、店頭に並べずにすべて奥にストックしてあります。一方でこれから暑くなっていく今の季節は、空調服(冷房ファンの付いた作業着)がすごく売れるんです。なので店頭の目立つ位置に置いてありますね」

言われてみれば、納得です。私が白衣という言葉に囚われすぎていたようです。事前のリサーチで、三光白衣さんがユニフォームの製造・販売・卸を一括して行っている会社と知っていたはずなのに。お話を伺ったところ、新橋店だけでも、近隣の飲食店以外に、築地で働く仲卸の方や、銀座の高級店などの常連さんがいらっしゃるそうです。さらに、奥の倉庫には遠方の取引先への発送を待つ様々な業界の制服が、箱に詰められて所せましと並べられています。臂さんによると、色々な業界、業種の人と知り合いその仕事のことを知れることがユニフォーム業界の仕事における一番の面白さなのだそうです。

「ユニフォームや作業着というのは、様々な業界で使用されています。色々な仕事があるなかで、制服を着ることによって誰かの生活を支える仕事を開始するというスイッチが入る。そんな特別なもの商品を届けるということに、私共は誇りを感じています」

外部から招聘された三代目社長として

臂さんはそんな三光白衣三代目の社長として、外部の企業から招聘され今年で3年目になります。元々、ユニフォームの納入に携わる会社の経験もあり、ユニフォームの代理店ビジネスのようなこともしていましたので、お話を頂いた時も抵抗はなかったそうです。実際、お話を伺っている最中も三光白衣の事業について、楽しんでいる雰囲気が伝わってきます。

新橋店の面白いところは、ポロシャツやインナーが良く売れるんです。新橋という街はサラリーマンが多く集まるでしょ。その中には、趣味としてがっつりやっているわけではないけれど、付き合いでゴルフを嗜む方がいらっしゃいます。嗜む程度の方は、ゴルフショップで一着数万円するような高級ポロシャツやスポーツインナーを買うことはないんです。ですが、それなりに良いものは欲しい。そういった需要を満たすのに、工事現場向けに作られたポロシャツやインナーが最適だったようなんです。そりゃあ、作業着なんて通気性や速乾性など機能性第一ですからね。ゴルフショップでデザインを吟味したのち、うちのお店で似たデザインの商品を探すお客さんも見かけます」

確かに!

納品しているだけでは見逃してしまう、こういった需要を発見できるのは、実店舗を構える三光白衣さんの強みです。ちなみに、そんな臂さんはこれからさらに三光白衣を発展させるためにどのようなことを考えていらっしゃるのでしょうか?

「まず一つは、OMO(Online Merges with Offline)です。当社では近年ECサイトを展開し力を入れています。ですが、せっかく山手線沿線に5店舗もあるのですから、実店舗に来ていただくことに価値を見出していただく仕組みを作りたい。

OMOとは日本語に訳すと、“オンラインとオフラインの統合”のことです。例えば実店舗で商品を手に取っていただき気に入ったらECサイトで購入してもらう。その逆でECサイトで商品を何となく検索してもらったお客様に、実店舗で該当商品の割引が始まったという案内メールを送る、などオンライン/オフライン問わずユーザビリティを向上させコンバージョンを高めるという考え方です。

「二つ目は、オリジナルブランドに力を入れていくこと。弊社にはオリジナルブランドがあり、埼玉の工場で縫製も行っています。ですがそれとは別の、全く新しい制服の開発をしたいと思っているんです」

それは、どういうことでしょう?

「かつて看護師さんはナースと呼ばれており、その制服は白衣と決まっていましたよね。でもいつのまにかお医者さんも看護師さんも動きやすく楽という理由で、ゆったりとしたスクラブ形式の医療着を着用するようになりました。色も白だけじゃなくなりましたよね。こういう全く新しい形の制服の常識を、私たちの手で生み出したいと考えているんです」

近年あらゆる医療機関で見かけるようになったスクラブ式の医療着

言われてみると確かにそうです。かつて黒と赤しかなかったランドセルだって千差万別になり、今や赤と黒のランドセルを見かけることの方が珍しくなりました。文化というのは時代によって大きく変わっていくのなら、ユニフォーム店が新しい文化を生み出すことだって可能なはずです。

「最後に情報発信ですね。ECサイトにしても新しい制服文化の創造にしても、こういった活動を取り組んでいるということを言ってもらい、お客さまや世間に知ってもらわないことには始まりませんので」

なるほど。ちなみに45周年記念で、今年から新橋駅前の清掃活動を始めたとのことですが、そこにも何か狙いがあるのでしょうか。

「新橋を通る方々に、弊社のことを知ってもらいたいという狙いはもちろんあります。元々、新宿本店では清掃活動を定期的に行っていたので、会社として取り掛かりやすかったというのもあります。ですがそれ以上に、45年間受け入れてくださった町への感謝ですね。従業員がゴミ出しをしていると町の方々が挨拶をしてくれるんです。本当に新橋店が町に受け入れてもらっていると感じています」

同時に臂さんには社員の方々に、外に目を向けて欲しいという思いもあるとおっしゃいます。

「毎日目の前の仕事にとらわれていると、どうしても内ばかり見てしまいます。ですが、掃除をきっかけとして町を見ると、外に目が向くようになるんです。外に目が向けば自ずとスタッフの意識も変わってくると思っています」

そういえば私も、掃除をしているとき街路樹の下に一定間隔で誰かが植えた花に目を奪われました。このエリアの誰かが、町の美化のために花を植えているようです。なら、そのお手伝いは喜ばれるかもしれない。お手伝いのための園芸グッズは喜ばれるのかもしれない……。

ユニフォーム業界のようなあらゆる職種の方を相手にするお仕事だからこそ、こうした小さな気づきがビジネスに発展する可能性は常にあるのかなと感じました。

臂社長は、ユニフォーム業界の商売というのは、基本的にB to Bの商売だとおっしゃっていましたが、お店を構えている以上場合によってはB to Cの商売になることもあるはずです。ならば、一般消費者の方々の目線を忘れないことは、とても大事なことのはずです。

そういった点は、常に読者の欲する情報を探す私たち編集業も同じです。「書を捨てよ、町へ出よう」と、かつて歌人で劇作家の寺山修司は仰っていました。町へ出ることが大切だと、身につまされたそんな取材となりました。

三光白衣 新橋店の皆様。今回はありがとうございました。

【三光白衣 新橋店】
住所:東京都港区新橋1-18-13
時間:9:00~18:00
定休日:土・日曜日、祝祭日
アクセス:JR新橋駅、「日比谷出口(SL機関車側)」から徒歩5分

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