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【港区のミュージアム】芝で発見!精密測定機器と触れ合えるショールーム

2025年2月19日

今年の正月、帰省をしたところ祖母の家のお隣にあったお屋敷が更地となり、新たな家が建ち始めていました。お話を聞いたところ、釘を一本も使わず昔ながらの木組みで立てていらっしゃるのだとか。組み立て途中の柱を見せてもらいましたが、組木の細かさ美しさには、ただただため息が漏れるばかりでした。

料理もDIYも、“感覚”で行う私にとっては、こうしたミリ単位の調整は気が遠くなる作業です。ですが、世の中にはミクロ単位で測定や調整が必要な仕事も存在します。

今回、お邪魔したのは、港区芝に東京支社を抱える株式会社テクロック。こちらは、職人の方々が使うような専門的な測定機器を、製造販売しているメーカーです。なんと最近、一般の方も専門的な測定機器に触れることができる展示ブースを設置したのだとか。ということで、見学をさせてもらいました。

外観からはこの中にショールームがあるとはわかりません

私たちの生活を支える見たことのない測定機器の数々

「これ、何だかわかりますか?」

自社製品を手に取りながら詳しく機構を教えてくださった原田さん

当日ご案内していただいた、テクロックの代表取締役・原田 健太郎さんがそう言って取り出してくれたのはアナログ時計の下に、針のようなものがついた3つの測定器。

変わった形の懐中時計にしか見えないが、全く違う測定器だそう

古い戦争映画で潜水艦の中に設置されている深度計みたいですが、使い道は全くわかりません。

「これらの測定機器は、それぞれ全く異なる項目を測定するのに使用されています。まずいちばん左のこちらはダイヤルゲージという測定器で、寸法の変化や平面度を測る測定器です。下の測定子(触れる部分)がものに当たると、その動きを針に伝えて、針が指す目盛りを読み取る仕組みで、振れの確認や寸法比較に使われます。このダイヤルゲージですと、目盛り1つは0.01mmを指します」

そんなに細かい単位を!いったいどのような場面で使われるのでしょう。すると原田さんは、主に部品などの寸法精度の確認をするシーンのあるものづくり現場で頻繁に使われると教えてくださいました。例えば、自動車のパーツなどは、00.1mmでもずれが生じてしまえば人命にかかわる事故につながるかもしれません。そのようなものを作っている現場では、ダイヤルゲージのような細かな長さを測定できる機器が重宝されるのだそうです。言われてみればおっしゃる通りです。もし、雑な測定で不良品が混ざっていて、そのことによって人命が失われてしまっても責任は取れませんからね。そう考えると、測定器というのは現代の工業社会の一番根っこを支えている、とても大切な要素なんだなと実感します。

テクロックの本社は諏訪湖の西岸にあたる長野県岡谷市にあります。諏訪湖沿岸は、精密時計の製造で有名な地域ですね。

テクロックも元々、東京芝浦電気(現在の株式会社東芝)の時計製造部門として昭和25(1950)年に誕生したそうです。

倉庫の奥から出てきたという芝浦マツダ工業株式会社製の電気時計。初期の時計製造時に参考として使用していたそう

「ダイヤルゲージの目盛り部分が、時計板のようでしょう?時計の製造技術を転用して、弊社は始まったのです

と原田さん。

原田さんのお父様でテクロックの創業者でもある先代社長は、元々東京芝浦電気の社員さん。同社の経理部門で芝にあった本社にて働いていたそうです。ですが、戦争が激しくなり東京も空襲を受ける恐れがでてきました。都内の企業は、工場を地方へ移転させ始めます。この時、東京芝浦電気の電気時計製造工場は、精密時計工場がすでに集中して財閥なども誕生していた信州の諏訪地方、岡谷へ工場を疎開させたのです。

「もともと岡谷の周辺は生糸の生産が盛んで大きな紡績工場があったそうです。生糸産業が衰退していく中で、代わりとして町に根付いていったのが精密工業だったと聞いています。大きな紡績工場の施設を一部再利用できることや、生糸工場で働くために町に集まっていた労働力の転用。何より岡谷の人々の、おらが町で産業を起こしてやるという独立志向の強い気質が、一帯を精密工業地帯として押し上げていったようです

昭和25年、先代は東京芝浦電気の電気時計製造工場の移転した工場を譲渡してもらい、東京電気時計株式会社を創業します。東京電気時計株式会社を、英語で書くと『TOKYO ELECTRIC CLOCK CO.,』

「現在の弊社の社名、テクロック(TECLOCK)は、この頭文字からなんですよ』

と原田さんは笑っておっしゃいました。先代は、東京電気時計株式会社の創業とともに、東京から岡谷の町へ移り住むことになりました。そのため原田さんも岡谷で生まれ育ったそうです。昭和27(1952)年には、最初のダイヤルゲージの製造・販売が始まり、社名も東京精密工業株式会社となっています。以後、精密計測機器メーカーとして、さまざまな分野の計測を行う測定器を開発しています。

ちなみに、社名を”テクロック”に変更したのは、昭和37(1962)年からだそうです。

「今回、東京支社が手狭となったため移転先を探していたところ、たまたま芝のこの事務所が空いていたのです。偶然ですが、創業者縁の地に戻ってくることとなったのには、運命めいたものを感じます

以下、いくつかテクロックで製造していた測定器の紹介です。

まずは写真の真ん中に映っている。「シックネスゲージ」

レバーを押した感覚が軽くてカチャカチャしたくなります

メーターの右上についているレバーを押すと、茶色の部分が上に持ち上がります。こうしてできた隙間に物を挟み込むと、その“厚み”を測ることができるんです。紙の厚さも測定できるそうで、品質管理や検品の現場で活躍しています。

「実は有名な牛丼チェーン店でも使用していただいているんですよ。お肉の厚さをそろえるのに使われているんです

なるほど。全国同じものを食べられるはずなのに、隣の人と自分が食べているお肉の厚さに、差があったらなんとなくいやな気持になりますもんね。

続いてこちら「硬度計(デュロメータ)」。

手で押し付けて使うと人によって数値にばらつきが出ることもあるので、スタンドに取り付ける方法もあるそう。

硬度計の針先を物に押し付けて、ものの硬い柔らかいを数値化して表すことができます。硬さなんて測ってどうなるのかとも思ったのですが、原田さんが例として話してくださったのが「お菓子メーカー」。

グミキャンディなどの食感が売りとなる商品の場合、ちょっとした歯ごたえの違いが大きな差異となるため、硬さの測定が大切になるそうです。

その他、例えば自動車のタイヤのゴムの硬さなど、綿密な硬度調整が必要な場面で用いられるとのこと。

いずれも、考えたこともないような値を数値化する測定器です。実際に測定の現場で使用されている職人さんにとっては、自らの右腕となる大切な測定器なのでしょうが、私のように初めて触る人間にとっては、こんなものまで測定ができるのかというワクワクに胸が躍ります。なんて楽しそうな会社でしょう!

ですが、悩みもあるのだそうです。

職人の使う測定器を作るのもまた職人

テクロックには、すでに生産を中止しているモデルの測定器を持ってきて「修理してくれ」と言ってくるお客様がいらっしゃるそうです。

信じられないかもしれませんが、これらの高精度に測定ができる機器は、職人が1つ1つ手作業で小さな部品を組み合わせ、調整し、製造しています。その高精度さからか、壊れにくく、数値のずれも少ないということで本当に大切に使って下さるお客様がたくさんいるんですね。岡谷の工場には、70歳近いベテランの職人さんがまだいらっしゃいます。修理はこのベテランの職人さんにお願いすることで何とか対応しています。ですが、職人の勘に頼りすぎていたために技術承継という点では課題を感じています

テクロック自身も職人の世界なら、テクロックの商品を使う人々がいるのもやはり職人の世界。令和の現在になっても、まだまだアナログな働き方をしている環境が多いのだそうです。そこには良い面もあるのですが、同じ職人の目から見て、業務の妨げとなっていると感じる面も多数見えてくるのだとか。

「そこで、テクロックでは現在測定DXという取り組みを始めています。各種測定機器にBluetoothを搭載し、SmartMeasure®というアプリと連携させることで、これまで紙とペンで記録していた測定結果を、自動でパソコンに転送できるようにしました。検品や検査を行う現場の負担を軽減できますし、手書きによる記録ミスを防ぐこともできます。さらにクラウドも用意しましたので、世界各国に拠点があるよな大企業でも、リアルタイムで世界中の測定データを共有することができるんです」

Bluetoothを搭載した最新の測定器の数々

現在、クラウド利用はまだまだというお話でしたが、自分たちが職人だからこそ職人がいる現場の課題と需要を汲み取れるんですね。

ショールーム設置のきっかけは東京支社の移転から

今回、事務所の一角に設置したテクロックの歴代商品のショールーム。どうしてショールームを開こうとおもったのでしょう?

きっかけは、事務所の移転でした。それまでのオフィスと比べて広めの事務所を開くことができ、スペースが少しできたんです。そこをどう活用しようかと考えた時に、移転の際にたくさん出てきた古い資料を展示しようということになりました」

PCと接続することで自動計測をする最新の計測器も展示中

実際に並べ展示しててみたところ、来社される取引先にも興味を持ってもらえ、会話も弾むなど新たなビジネスのきっかけとなっているとのことです。

ということは一般公開はされていないのでしょうか?

「いえ、そんなことはありませんよ。ただ事務所の一角ですので、ご来社の際はご一報いただけると助かります

大人が触ってこれだけ楽しいのですから、測定器を使った測定の面白さは、むしろ子どもにささるかもしれませんしね。

「そうなんですよ。どうしても精密測定機はB to Bのプロダクトなので、一般への認知度が低いんです。当社で働く職人の高齢化の問題もありますし、もっと子どもたちに精密測定機に興味を持ってもらえたらな、と思っているんです

と原田さん。

子どもたちを集めてコンビニでグミを買ってきてもらい、誰が一番硬いグミかの競争を行ったり、ぴったり0.1mmのものを探したり、夏休みの自由研究用に機材を貸し出したり……子どもにもアピールできそうな場面はたくさん思いつきます。最後は童心に帰って、自分がテクロックさんの精密測定機器を使って遊べるならという妄想を、原田さんに語ってしまいました。

長期休みの自由研究などで困っているお子さんをかかえていらっしゃる親御さんの方々は、テクロックさんのショールームをのぞいてみてはいかがでしょう?良いヒントが得られると思いますよ!

お忙しい中わざわざお時間を作っていただきありがとうございました

【株式会社テクロック 東京支社】

住所: 東京都港区芝2丁目10-1 芝ブライトビル3階
時間:訪問前に要問合せ(03-5765-5333)
アクセス:都営三田線芝公園駅「A1」出口から徒歩5分

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