仏様に金運上昇の弁財天様、閻魔様まで勢ぞろい! 宝珠院は“ご縁のハブになるお寺”
増上寺のすぐ裏手、静かな緑に囲まれた増上寺塔頭 三緑山 宝珠院。増上寺に安置されていた徳川家康公が篤く信仰していた『開運出世大辨才天』を誰でも参詣できるようにと、宝珠院を開創された霊玄上人が1685(貞亨2)年に建立した寺院です。
実は宝珠院には、お寺としては珍しく、ご本尊のほか、さまざまな仏様や神様が集まる場所。その名前からして、大きなご利益を頂けそうな『開運出世大辨才天』は、以前ご紹介した「港七福神めぐり」の弁財天様でもあります。
今回のテーマは、弁財天様。そして、宝珠院を起点にした、さまざまなご縁についてのお話をご紹介します!
▼港七福神めぐりについてはこちらの記事で紹介しています
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増上寺塔頭 三緑山 宝珠院 住職 第23世
森 俊人さん
「京都、鎌倉、増上寺の行を得て、2011年に宝珠院の住職に就任。愛犬の副住職と共に日々仏道修行中です」
家康公が篤い信仰を寄せた『開運出世大辨才天』 その手に持つのは……?
宝珠院に安置されている、『開運出世大辨才天』は、徳川家の菩提寺であった増上寺に納められていた霊験あらたかな弁財天様を、みなさまが参詣できるように、という、霊玄上人の想いから宝珠院に祀られるようになりました(詳しくはこちらの記事)。
「源頼朝公、徳川家康公と、歴史の教科書に載っている方が信仰した弁財天様です。戦乱の世は、いつ討ち取られるか分からないですからね。拠り所は本当に必要だったと思うんです」と、ご住職。
「日本に弁天信仰が入ってきた当時は、軍神としてお祀りされいました。なので、うちの弁財天様も斧や盾をお持ちです。いまは芸事・金運の神様としてお祀りされることが多いですよね。
弁財天様は変わらないのに、時代により、私たちがお参りする確度が変わることで、ご利益や見方が変わってくる。面白いですよね」
858年に智証大師(円珍)の手で彫られた秘仏・弁財天様は、厨子に安置され、公開されるのは家康公の命日である4月17日前後の1週間だけ。普段は、白いお顔が美しい『開運出世大辨才天』が厨子の前で公開されていらっしゃいます。
「開運出世大辨才天は、もともと『除波尊天』と名付けられていたんです。足元に、うねった波が表現されていますね。でも、家康公が江戸幕府を開府して、戦乱の世が終わった。これからは安心して生きて行けるぞ、ということで、『開運出世大辨才天』と名付けられたんです」
真っ白いお肌が美しい弁財天様ですが、両手に武器を持たれた御姿は、勇ましい限り。
「厨子に安置している秘仏の弁財天様は、皆様にもぜひご開帳のタイミングでご覧いただきたいですね。頼朝公や家康公が、何百年も前にこの前で同じように手を合わせていたんだな、と思うと、ゾクっとしますよ」
ちなみに、御開帳の時、厨子の前の弁天様はどちらに行かれるんだろう? と思っていたら、「ちょっとだけ横にずれていただいています(笑)」とのこと。
弁財天様にも席次がある、ということでしょうか!?
弁財天様とのご縁が深まる! 財運アップ祈願にぴったりの巳の日は大賑わい
弁財天様とのご縁が深まり、財運がさらにアップすると言われている「巳の日」。弁財天様の使いがヘビであることに由来しています。巳の日は12日ごとに巡ってきますが、60日に一度訪れる「己巳の日」は、特に縁起が良いと言われています。「巳の日」「己巳の日」は、やっぱり賑わうのでしょうか?
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「巳の日の賑わいはすごいですよ。己巳の日になると、本当に多い。財運、金運、宝くじの御祈願や限定の御朱印をお求めになる方のほか、新しく買ったお財布を巳の日にお参りしてから使いはじめる方もいらっしゃいますね。
巳の日に限ったことではないですが、最近は御朱印をお求めになる外国の方もたくさんいらっしゃいます」
宝珠院の御朱印は、閻魔様、巳の日の弁財天様、そして季節を感じられる月替わりの御朱印と、とても素敵なデザイン。
皆さんで考えられているとのことですが、「昔のデザインと重ならないようにしてるんですが、これがなかなか大変でねぇ」と、ちょっと楽しそうなご住職が印象的でした。
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宝珠院を支えているのは、檀家さんではなく、閻魔様と弁天様の信者さん
「財運や金運など関係なく、昔から宝珠院の弁財天様を信仰されていて、純粋に巳の日にお参りに来られる方もたくさんいらっしゃいますよ」と、ご住職。
「お寺って、檀家制度で成り立っていますよね。でも、宝珠院は檀家さんではなく、“信者さん”で成り立っている、“信者寺”なんですよ。ずーっと、弁財天様と閻魔様の信者さんで成り立っているんです」
信者寺? はじめて聞く言葉に「?」が浮かんでいると、「特殊ですよね(笑)」と、分かりやすく教えてくれました。
「お寺は、檀家寺、信者寺、観光寺に分けられます。檀家さんで成り立っている檀家寺が90%以上。たとえば京都のように、観光地と一体になっているのが観光寺。ごくまれに、信者寺と呼ばれる、うちのようなお寺があります。
代々、宝珠院の弁財天様や閻魔様を信仰されて、お酒やお米をお供えいただいたりね。現在はこの辺りから離れてしまった方もいらっしゃいますが、いまでも、閻魔様や弁財天様を信仰されて参詣に来てくださるんです」
争いのない平和の象徴! ヘビ、カエル、ナメクジの「三すくみ」
閻魔様や弁財天様に加え、もうひとつ宝珠院で見ておきたいのが、「三すくみ」の石像+石柱。
「ヘビはカエルを食べる。カエルはナメクジを食べる。ナメクジはヘビを溶かすことができる。三者三様の強弱関係があり、喧嘩しないで仲良くしようね、という、平和の象徴です。
実はこれもすごく古い。文献などは残っていないのですが、宝珠院が建立された時からじゃないかな、と思います」
カエルは閻魔様のすぐお隣に、ヘビは、開運出世大辨才天の視線の先に石像があります。でも、ナメクジの石像は……見当たらず。
「ナメクジは石柱に彫刻で入っていて、石像はないんです。何でなんですかねぇ?理由は分からないんですよ(笑)」
高さ1mほどの三すくみの石柱があるのは、ヘビの石像の正面あたり。お邪魔した際は、忘れずにチェックしましょう。
「石柱にもヘビ、カエル、ナメクジがいます。実はこの石柱にも面白い逸話があるんです。
いまはすべての彫刻が見えますが、改築工事の時まで、かなり地中深くに埋まっていたんです。なので長い間、石柱のいちばん下に描かれているカエルの姿は見えなくなってしまっていた。私も、この石は“ナメクジの妄想”という名前がついているんだよ、と聞かされていましたが、何が妄想なんだろう? と不思議だったんです。まぁ、カエルの姿はないけど、ナメクジがヘビとカエルに睨まれ、恐れてた姿を表しているのかな、と思っていて」
「今回の工事で石柱を引っ張り上げて、業者さんが埋もれていた部分を水で洗っていてくれたんですが、急に大きな声で、“カエルがいます~!”って(笑)。もうびっくりですよ」
「もともとは、池の淵にあったんですが、地盤があまり丈夫じゃない場所なので、長い年月で埋まっちゃったんですね」とのこと。カエルさんもそろった平和の象徴・三すくみ。いつまでも、平和に平等に暮らしてけるように、忘れずに拝見しましょう。
宝珠院は「仏様が結んでくれるご縁」のハブになるお寺
穏やかな口調で、とってもお話上手なご住職。フラッと立ち寄られた方と、お話されることもあるのでしょうか?
「よくしますよ。閻魔様が見えたからなど、立ち寄られるきっかけはいろいろあるんですが、話をしていると、巳年生まれの方が多かったりとか。本当にご縁なんだなぁ、と思いますね」
巳年……巳の日に縁が深い、弁財天様もお祀りしているから!?
「そうそう、面白いですよねぇ。人間って、必ずどこかでつながるんです。仏様が結んでくださるご縁でね。
ご縁に関する面白い話も、いくつもありますよ。たとえば、趣味で周辺の写真を撮ってくださる方がいらっしゃって、撮影した画像もいただくことがあるんです。好きで撮影されているから、すっごい愛が伝わってくる、良い写真なんですよ。で、よくよく話してみたら、私と同じ高校の1学年後輩!」
すごい偶然! と驚いていると、「もっと驚く話もあるんですよ」と続けるご住職。
「以前、縁あって、バナナの皮に絵を描く“バナナアート”をされている方がお寺にいらっしゃったことがあるんです。私の顔を書いてくれて、その方のFacebookやInstagramにアップされたんですね。そしたら次の日に、その写真を見た、私の留学時代の有人が彼にコンタクトを取ってくれたんですよ! で、私に“こんな方から連絡がありましたよ”と教えてくれて。
留学していたのは中国なのですが、学生時代なのでもう30年以上前。バナナアートをきっかけにまた連絡が取れるようになって、数珠つなぎで昔の友人との交流も復活したんです」
ご住職のびっくりするようなお話をうかがっていると、目に見えない「ご縁」は本当にあるんだなぁ、と実感できます。「また連絡が取れるようになった友人もね、みんな来てくれるんですよ。ずっとお寺にいるでしょ?って(笑)」と、柔和な笑顔のご住職。
江戸時代より、庶民に開かれたお寺として鎮座する宝珠院。23代目となるご住職ですが、実はご両親から宝珠院を継いだわけではなく、縁あって、お寺を継がれたとのこと。
「宝珠院は母の妹、私の叔母が嫁いだお寺なんです。なので、小さい頃から連れてこられてはいましたけどね。でも跡取りがいなくて、親族のなかから、縁あって私が継ぐことになったんです。もともとは、全然違う畑の人間だったんですよ(笑)」
とのことでしたが、宝珠院を継がれ、こうして多くの方とさまざまなご縁を結ばれるお話をうかがうと、きっと宝珠院との強いご縁があったのかな? という気がします。
「リアルで誰かに会える、誰かとつながれることに、お寺というツールが一役買ってくれるのがうれしい」とおっしゃっていた通り、取材とはいえ、とっても楽しいおしゃべりの時間を過ごさせていただきました!
閻魔様に弁財天様、東京タワーの麓にある宝珠院は、さまざまな「ご縁」のハブになってくれるお寺かもしれません。みなさんも、ご縁を結びに訪れてみてはいかがでしょうか?
【増上寺塔頭 三緑山 宝珠院】
住所:東京都港区芝公園4-8-55
寺務所受付/9:30~16:30
アクセス:都営大江戸線「赤羽橋駅」より徒歩約5分、都営三田線「芝公園駅」より徒歩約7分