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【虎屋 赤坂ギャラリー】 「和菓子のはじめて」に出会える旅に行こう

2023年11月2日

さまざまな角度から和菓子を学べる、虎屋 赤坂ギャラリー

室町時代後期に京都で創業し、御所御用を勤めていた老舗和菓子店「とらや」。漆黒の背景に黄金色の虎が駆ける姿の紙袋は、誰もが一度は目にしたことがあるでしょう。
古くより皇室の菓子御用を勤めていた「とらや」は、京都の店舗は残しつつも明治に入り遷都に合わせて上京。明治12(1879)年より赤坂に店を構え、以降150年近く赤坂のシンボルにもなっています。
現在の赤坂店は平成最後の年であった平成30(2018)年にリニューアルしましたが、店先にたなびく「とらや」の暖簾の文字に変わりはありません。

暖簾右上の押印は「千里起風」。虎は千里往って千里還る、虎嘯けば風騒ぐを掛け合わせた造語です。

店舗の地下1階には、「虎屋 赤坂ギャラリー」があることをご存じでしょうか?和菓子にまつわるさまざまな企画展示を行っており、入場は無料。お菓子を購入するのにあわせて、喫茶室「虎屋菓寮」の待ち時間にと、ギャラリーを訪れる方が後を絶ちません。

和菓子の「はじめて」に会いに行こう

現在の展示は「虎屋文庫50周年記念! 和菓子の〈はじめて〉物語展」(開催中~2023年11月23日まで)。

ここから和菓子のはじめてに出会う旅が始まります。

「虎屋文庫」とは、株式会社虎屋の一部署。室町時代後期から、5世紀にわたり上質な和菓子を作り続けてきたとらやだからこそ持つ貴重な古文書などの保存などをはじめ、和菓子文化の伝承と創造の一翼を担うことを目的に設立された資料室です。

そんな虎屋文庫に残る貴重な古文書をはじめ、さまざまな調査から見出された「和菓子のはじめて」が集められています。

入口付近には、虎屋文庫スタッフが考案した和菓子の見本帳も展示されていました。

羊羹や饅頭、最中、金つばなどお菓子のはじめてから、享保3(1718)年に刊行された、版本としてはじめてのお菓子専門の製作書「古今名物御前菓子秘伝抄」に記載された道具やお菓子など、また、名だたる文豪がある和菓子をはじめて食べた時の感想まで、さまざまな切り口から「和菓子のはじめて」を知ることができます。

たとえば、とらやの代名詞とも言える羊羹。

発祥は古代中国で、「羹」の字はスープを意味しています。実はもともと羊羹はスイーツではなく、羊の肉などを煮込んだスープでした。鎌倉~室町時代に中国に留学した僧が日本に持ち帰り、「笋羊羹」「砂糖羊羹」という小豆などを使用した精進料理になったと考えられています。その後、茶会の席での茶菓子として蒸羊羹に近いものが作られるようになり、江戸を中心に煉羊羹が広まったのが1800年ごろだそうです。

素材や姿が大きく変わり、別物と言えるほどの進化を遂げたにも関わらず、「羊羹」という名前が残り続けたのも不思議ですよね。

とらやの和菓子職人が再現した「はじめて」も必見!

特筆すべきは、展示にまつわるさまざまな和菓子の姿を、とらやの職人さんや虎屋文庫スタッフが蘇らせていること。文献をベースに推測を交えて再現した「古代中国の羊羹」「精進料理としての羊羹」なども展示されています。

再現された精進料理の羊羹は、まるで「おすまし」のようです。

もちろん、饅頭や金つばも同様。さまざまな和菓子の歴史をはじめ、思わず「美味しそう」と見入ってしまう、「再現菓子」は必見です。

ちなみに私がいちばん印象的だった「はじめて」は、「どら焼きはもともと大型の金つばだった」ということ。大きい金つばは銅鑼に似ているので「どら焼き」、小型のものは「金つば」という名称のまま(金つばは京都で生まれた「銀つば」がもとになっているそう。金貨を使用する江戸では、生地を変えたものが「金つば」と呼ばれ、定着したようです)だったそうです。

小麦粉・卵・砂糖を使った生地に餡がはさまれた現在のどら焼きが誕生したのは、明治に入ってからとのこと。私たちが知る現在のどら焼き、和菓子界ではまだまだ若手ですね。

ぜひ展示室でサイズを感じてほしい、握りこぶしほどの大きさの「鶉焼(うずらやき)」。

ほかにも興味深い展示がたくさんありますが、ぜひギャラリーに足を運んで、実際に展示してある古文書や再現されたお菓子たちの姿をご覧になってください。

はじめは「鶉焼(うずらやき)」と呼ばれ、ずっしりと餡子が詰まった大福の大きさ、上生菓子のルーツである「上菓子(じょうがし)」が描かれた、現在の商品カタログに相当する「菓子見本帳」に見る、古から変わらぬ和菓子職人の繊細さや四季を表わす創造力など、きっと実物を目にするからこその発見があるはずです。

時代を超え和菓子職人のセンスに感動する「菓子見本帳」など。

決して広いとは言い難いスペースですが、無駄なくじっくりたっぷり、和菓子のはじめてに出会うことができる企画展です。

池波正太郎も太鼓判!とらやと言えば「夜の梅」

ちなみに、ギャラリーを出るころには、とらやの羊羹「夜の梅」を買って帰りたくなること請け合い。なぜなら、池波正太郎と「夜の梅」のはじめてのストーリーとして、「これが羊かんなら、いままで、おれが食べていた羊かんは、うどん粉のかたまりみたいなものだ と、おもった」という感想が紹介されているから。

和菓子には、名だたる文豪もとりこにする魅力があります。

私もギャラリーを出たその足で2階のショップへ向かい、夜の梅を購入しました。

我家は、曾祖母から代々引き継がれている生粋の「夜の梅」ファン。とらやでは、羊羹「夜の梅」「おもかげ」、生姜が香る「残月」、梅の形をした最中「御代の春(白)」がマストバイの4品です。

古今和歌集の和歌を連想させる「夜の梅」。

ちなみに、赤坂店限定の「残月」も販売しています。他店舗との違いは、店内で毎朝つくられていることと、甘さ控えめの餡であること。細く糖蜜がかかった歯ごたえのある皮が特徴の残月ですが、赤坂店限定の残月は、また違った食感や味わいが楽しめます。

ほかにも虎斑模様を表した羊羹「千里の風」など、ここでしか手に入らない和菓子もあります。

和菓子についての知識を深められる「虎屋 赤坂ギャラリー」は、和菓子ファンには外せない、赤坂の名所です。

虎屋文庫50周年記念! 和菓子の〈はじめて〉物語展
住所:東京都港区赤坂4-9-22
とらや 赤坂店 地下1階 虎屋 赤坂ギャラリー
時間:10:00~17:00
休館日:11月6日
料金:無料
アクセス:東京メトロ丸の内線、銀座線赤坂見附駅「A出口」より徒歩7分

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