
南青山にある大型キャンドルショップは(社)日本キャンドル協会の本部!?
様々なファッションブランドの直営店やセレクトショップが立ち並ぶ南青山。そのランドマークである根津美術館の近くに、おしゃれなキャンドルショップがあることは以前から知っていました。
可愛いお店だなとは思っていたものの、部屋でキャンドルを灯すような趣味もないため、自分には縁のない店だと思っていました。
先日、その店の前を通りかかった時、とんでもないことに気が付きました。
「建物にカメヤマローソクってロゴが入っていたんだ。……カメヤマローソク⁉」
そう。お仏壇やお墓に供えるローソクの定番ブランド、カメヤマローソクのショップだったのです。
いったいなぜ、仏壇用ローソクの大手メーカーが、表参道でこれほど洗練されたキャンドルショップを展開しているのか。
その理由を探るべく、「カメヤマキャンドルハウス青山店」併設のキャンドルスクール「JCAキャンドルスタジオ」などを運営している、(社)日本キャンドル協会(JCA)代表理事であり、カメヤマ株式会社執行役員でもある金指琢也(かなざし・たくや)さんに話を伺いました。
当初、(社)日本キャンドル協会はカメヤマ株式会社の「一顧客」だった
そもそも、カメヤマローソクを製造販売しているカメヤマ株式会社と(社)日本キャンドル協会は、どのような関係なのでしょうか。

金指琢也さん。ご自身もテレビやラジオなどに出演されてキャンドル文化を広めていらっしゃいます
「(社)日本キャンドル協会は、2009年に設立されました。ただ、その時はカメヤマ株式会社とは関係がありませんでした。個人の方が立ち上げ、ハンドメイドキャンドルを作る技術とか知識とかに対する資格の発行とスクール業務を行っていました。当時我々カメヤマ株式会社は協会の運営には関わっておりませんでした。(社)日本キャンドル協会には、材料を卸していたんです」
と金指さん。なるほど、あくまで立ち上げ当時の(社)日本キャンドル協会は、カメヤマ株式会社の数多くいる顧客の1つだったのですね。
「はい。それで、2018年に、カメヤマ株式会社へ協会から相談が来たんです。なんでもその当時、協会の会員がついに5000人を超えてしまったそうです。さすがに個人で管理できる人数ではなくなってきたので、さらなる協会の発展のために、一緒にやっていってもらえませんか、という内容でした」
少人数の企業ですら人員管理に苦労するのに、個人の団体で5,000人もの名簿を管理なんて、恐ろしすぎて鳥肌が立ちます。
「その話を聞いたカメヤマとしての判断が、だったらもうグループの一員になっていただいて、協会にはもっとキャンドルの可能性を広めてもらいましょうということになりました。キャンドルを普及させるには、ただ資格発行やスクールを開催するだけではだめだと。我々が関わるからには、ハンドメイドの技術知識を広めるだけの団体から、それはそれで一つの事業として継続しつつ、加えて、いわゆるキャンドルライフを楽しむ啓蒙活動もしていく団体に再編しようと決めました」
金指さんは、ローソクという物のもつ本質について語ってくださいました。カメヤマ株式会社が手掛けるローソク・キャンドル、そしてお香は、誕生日という祝いの場でも、葬儀の会場など故人に祈りを捧げる場でも使用されます。だれもが「ゆりかごから墓場」(祈りから癒し)までお世話になる商品なのですが、逆にいうとこれまではそういう限られた場でしか使うことがありませんでした。
「弊社が(社)日本キャンドル協会をグループに加えたのが、2019年。私が協会の代表に就任したのは、2020年のことでした。偶然ですが、ちょうど新型コロナウイルスの流行が始まったころです。ステイホームを合言葉に外出が禁止され、対面接触が極端に避けられるようになりました。協会の主力事業であるスクール事業が完全に止まってしまったんです」
ステイホームが生んだ「キャンドル再発見」
突然始まってしまったステイホームの風潮。金指さんは「ステイホームの時代に、キャンドルとしては何ができるのか」を考えました。この当時、時間ができた多くの人はまず断捨離を行いました。しかし、家はきれいになっても外に出て人と触れ合えない寂しさは残ります。本当に必要なのは、家の中で自分を見つめ直しリラックスする時間でした。
「部屋の中で揺れるキャンドルの火を見つめるブームが起きました。キャンドルを灯しながら映画を見る、キャンドルを灯しながらゲームをする、キャンドルを灯しながらただ過ごす。まだまだ日本には浸透していないライフスタイルが定着しはじめたんです。ソロキャンプで焚火を見て癒されることがブームになったのもこの頃でしたよね。焚火は毎日できませんが、キャンドルなら家の中で似た体験ができます。キャンドルの再認識が始まったのです」
この機会を、金指さんは最大限に活用しました。よく店舗に訪れていたキャンドル好き著名人の方々に協会の理事として参加していただくよう声をかけました。
「理事の方々がテレビやメディアで、ステイホームの最中何をしていますかと聞かれたら、自然とキャンドルにはまっています、と話してくれ、これが大きな宣伝にもなりました。一気にキャンドルの普段使いへの注目が集まりました。それまで女性中心だった顧客層に加えて、男性の利用が急増したのは驚きましたね。家で焚き火ができるという感覚が受け入れられたのでしょう

ゆらゆら揺れるキャンドルの炎を前に商品の説明をしてくださった金指さん
「結果として、コロナ前と比べて売り上げが伸びました。テレビで紹介された商品のなかには、売り上げが7~8倍にまで増えるという、キャンドルとしてはあり得ない数字をたたき出したものもあります」
ハワイで知った「キャンドルが作る時間」
代表の金指さんは、どういった経緯でキャンドルと出会ったのでしょう。
「私自身はカメヤマ株式会社の創業の地でもある三重県の四日市出身です。キャンドルに興味をもったきっかけは、大学生の頃に一時期住んでいたハワイでの体験でした」
今から36年前。日本でキャンドルといえば、高級なレストランか、結婚式場で目にするくらいかといった時代のこと。金指さんは、夜にふらりと現地のレストランに入ったのだそうです。
「向こうの人って、レストランでご飯を食べてお酒を飲み終わった後も、喋るでも何をするでもなく、ただまったりゆったりとしているんですね。日本人って、ご飯屋さんでご飯を食べたらそれで終わり。そそくさと帰っちゃうじゃないですか。それは海に行っても同じで、泳ぐか、マリンスポーツをするか、外出をしたら何かをしなければならないと思い込んでいる。でもあちらの方って、海に行ってもぼーっとしているんです。スローライフなんて言葉はまだありませんでしたが、レストランで何もしていないという光景がカルチャーショックでした」
金指さんは、そのレストランの光景を見て、日本とはどこが違うのかを考えました。その時ふと目についたのが、テーブルの上でゆらめくキャンドルの炎でした。
「ああこれか。人はキャンドルを灯すと、ゆっくりのスイッチが入るんだと思ったんですよね。日本に帰ってきて、就職活動をしなければならないと思った時も、なんかその光景が忘れられずに……。そういう話を周囲にしていたら、地元にローソク屋さんがあるじゃないと言われ」
それまでもちろん名前は知っていたもののカメヤマローソクのことなどあまり意識していなかった金指さんでしたが、そういえばということで会社のことを調べ始めました。すると、会社の規模は小さいけれどもワールドワイドに展開をしていること。アメリカにも工場があって、アメリカで販売していること。 マレーシアやベトナムにも工場があることなど続々と発見があったのです。
「じゃあ、この会社とともに私がハワイで見たライフスタイルの提案をできたら面白いかなと思ったのです」
「キャンドルは雑貨である」という発想の転換
金指さんが入社した当時のカメヤマ株式会社にもキャンドル事業自体はありましたが、主に海外向けの輸出商品を扱っていました。日本国内を見回すと、冠婚葬祭の場に納品する商品が多く、日常とはかけ離れた商品という扱いでした。
「キャンドルの部門に入ったら、ライフスタイルに直結するキャンドル文化を広げられると思っていたのですが、そう甘くはありませんでしたね」
と金指さんは当時を振り返ります。ですが、入社し、東京へ転勤後カメヤマ株式会社内で東京にキャンドル事業部を設立しようという話が立ち上がります。金指さんは、喜んで手を上げました。とはいえ、キャンドルの需要自体がまだまだない時代です。朝はスーパーに営業に行き、その足でケーキ屋さんへ営業に行き、午後は葬儀屋さんに行ってみたいな営業をしていました。
ところが30年ほど前に、いわゆる雑貨店のブームが突如訪れます。ロフトやハンズ、やがてライフスタイルショップと呼ばれるようになるFrancfrancや無印良品などが、おしゃれな店として一大ブームを巻き起こしました。
「キャンドルって、当然食料品でもなければ、家具でもない。商品ジャンルでいうと何という区分ができない。だったら、これって雑貨じゃないですか?という形で売り込むことにしたんです」
実は海外では、以前からインテリアショップには必ずキャンドル売り場があったそうで、金指さんはそれを日本に作りたいと思っていました。
「海外のブランドと契約を結んで、キャンドルだけじゃなくて、キャンドルホルダーだったり、アクセサリーだったりを輸入させてもらいました。そして、それらをキャンドルと一緒に雑貨店に持ち込んだんです。ほら、キャンドルって雑貨でしょ。これを売るならこのあたりのアクセサリーも必要でしょ。キャンドルコーナー作りましょうよって」

キャンドルハウスの2Fは、取引先向けに商品を紹介するショールーム。一般の客は入れない。

故人の好物を模したローソクは、最近のヒット商品。灯し、溶けていくことによって故人に食べていただいている様子を表現できます。
仏具メーカーからライフスタイルブランドへ――青山進出の決断
こうして、雑貨店にキャンドルを卸し始めたころ、カメヤマローソクのキャンドル事業部は、一大決心をします。それまでのお客様はやはりお寺や寺社が中心だったこともあり台東区に置いていました。ですが、おしゃれなキャンドルを雑貨として売る、というブランディングを成立させるために、北青山の地に移転を決意し同時にキャンドルのショールームを建てたのです。
「カメヤマのローソクというと、仏具としては知名度を誇っていましたが、むしろそのことが足を引っ張っていました。各雑貨店のバイヤーさんからすると、仏具屋さんが何をしに来たのとなるんです。浅草にショールームがあっても、でわざわざ足を運んで……と見られてしまう。だったらおしゃれ文化の発信地である、青山・表参道エリアに移転して、あのカメヤマローソクが新しい業態を始めている、と見てもらった方がよいという判断でした。青山にある、あのカメヤマさんから仕入れたっていうのが、お客様のブランディング戦略の一助にもなればと」

現在キャンドルショップの1Fは、一般向けのショップとスクール。美しいディスプレイは見ているだけでテンションがあがる。
このショールームは、元々青山一丁目の駅から徒歩5分くらいの所に立っていましたが、場所が狭かったということもあり、2019年に南青山の現地に移転しました。
青山という街が持つ「文化を発信する空気」
となると、さぞかし港区青山エリアにも詳しいのではないでしょうか。ちなみに、三重から上京してきて最初にこの辺りを訪れた時のことは覚えていますか?
「ええ。まあ、月並みですけれど洗練されていると感じました。まず、歩いている人の恰好が違う」
分かります!青山って、スーツ姿の人が少ないですよね。チノパンにジャケットをひっかけて、カジュアルにまとめているというか。
「本当にそうなんですよ。30年近く前に背広でもなくスーツでもない人が歩いている街っていうのは、本当になくて。私も営業はネクタイとスーツだと言われていた世代です。それが正解だと思っていたのに、この町では浮いちゃっていたんです。当時の私の10歳年上の先輩がスタッフ全員を集めてね。青山からキャンドルライフを発信していこうと言っている割に、発信している人が発信している場所に負けてしまっているのは良くないよね。全員で服装を変えようよ、と話をしていたのを覚えています」
逆に長くいるからこそわかる、青山のイメージと実態のギャップはありますか?
「これは、意外と指摘している人少ないんですけれど。この町、東京都内なのに歩く速度がゆっくりですよね。私なんかせっかちな方なので、歩いている人を追い抜きながら出社していますよ」
言われてみれば確かにそうかもしれません。この辺りを歩く方は、ブランドショップのショーウィンドウを眺めていたり、そんなにあくせく焦らなくてもよいような人が多いからでしょうか?最近は六本木から根津美術館まで、ゆっくり歩いてミュージアム巡りをする外国の方も増えているらしく、余計にそう感じていると金指さんは教えてくださいました。
東京タワーで灯す、キャンドル文化の未来
(社)日本キャンドル協会では、キャンドル文化の普及のため、キャンドルに触れあってもらうリアルイベントの開催にも力を入れています。港区内では「TOKYO TOWER CANDLE DAYS」がおなじみでしょうか。

2025年開催時のポスター
「東京タワーでのイベントは2021年からですね。コロナ真っただ中の最中に、協会としてJapan Candle Artist Awardという国内外のトップキャンドルアーティストが集まって、キャンドルアーティストのNo.1を決める大会を東京タワーで開催することになりました。これ自体は盛り上がるイベントだったのですが、癒しを提案していきたい当協会のイベントが、競い合うだけっていうのはどうなのかなと思いまして。だったら、キャンドルナイトというイベントにして、ブランド化していこうよと。競うだけでなく、ステージ作ってトークショーとかキャンドルライブをやったりとか。もちろん、お店も出展してね。夕方になったら東京タワーが足元でキャンドルを灯して、キャンドルと一緒に綺麗な写真撮れますよ、という風な癒しスペースを作る場にしたいねという話になりました」
南青山から広がる、新しいキャンドル文化
金指さんは、キャンドルの明かりのホっとする感じと、東京タワーのふんわりとした明かりには共通点があると感じているそうです。
「日本人にとって東京タワーって、ノスタルジーを感じる光じゃないですか。僕は地方の出身ですけど、こう東京に戻ってきて東京タワーが見えると、ああ、帰ってきたなっていう気になるんですよ。同時に、東京タワーって戦後復興の証じゃないですか?昭和を生きた人にとっての希望の象徴。そうした要素とキャンドルの癒しを掛け合わせることに、東京タワーでイベント開催する意味が生まれているのではないかなと」
キャンドルの火や東京タワーのイルミネーションのような明かりによる癒しは、リアルイベントだからこそ感じられる良さです。(社)日本キャンドル協会は、体感し、伝えていくことを何よりも大事にしているそうです。そのため、このJCAキャンドルスタジオ東京本校の中でもキャンドル制作や、お香の制作体験をだれにでも開放している他、月に一回、満月の夜にだけ、月を模したキャンドルを制作しながら、店内のキャンドルを灯し炎の揺らめきに癒され、最後は満月を見るというイベントが開催されているとのことです。

表参道「日本キャンドル協会」が贈る貸切の店内でのキャンドルナイト −ムーンキャンドル制作− 出典:Otonami(おとなみ)公式サイト

キャンドル制作体験は、講師が付いてくれるので素人でも安心。

インセンス(お香)の制作体験も店内で行える。
「この建物自体は4F建てなんですけれど、屋上から外を眺めるとこのあたり一帯が高台にあるということをしみじみと感じるんですよね。渋谷や六本木側と比べると土地自体が高いから見晴らしがとてもよい。町を歩いていたらね、手押し車を押したおばあちゃんがなんかつらそうにしているんですよ。声をかけてお手伝いをしてみたら、若干ですが確かにきついんです。そしたらおばあちゃんが、この辺りは山だから、私らみたいなのには歩いていると大変なのよって。でも、それこそがこの町の特長なのかなと。(社)日本キャンドル協会はこの町、この場所を拠点に活動をしております。だから、インセンスも、キャンドルも、このビルを最大限活用した、この場所ならではの体験やツアーという物にしていければと思っているんです」
南青山にあるキャンドルショップを訪れてみたら、我々が知らない日本のキャンドル文化の仕掛け人の熱い思いと、令和のキャンドル文化の萌芽を感じることができました。
【カメヤマキャンドルハウス】
住所:東京都港区南青山4丁目25−12
時間:11:00~18:00
定休日:お盆期間・年末年始
アクセス:東京メトロ表参道駅「A4出口」より徒歩9分
【JCAキャンドルスタジオ東京本校】
住所:東京都港区南青山4丁目25−12
時間:10:00~18:00
定休日:毎週火・木曜日
アクセス:東京メトロ表参道駅「A4出口」より徒歩9分

