
生成AI×ハーブティー? 数字では測れない「癒しの体験」を経験してきました!
今年の流行語大賞のなかに「チャッピー」という単語が入っていて驚きました。
チャッピー……正式名称をChatGPT。
世は空前の生成AIブームです。ChatGPTが一般公開されたのは2022年ですから、わずか3年で世界はここまで大きく変わってしまいました。
最近は、生成AIを組み込んだプロダクトを開発し提供を始める企業も増えてきています。そうした企業の資料を拝見すると「生産性があがる」「人が介入することによるミスの排除」といった、業務効率化のための文言が並んでいます。
間違いなくこれからのビジネスは生成AIを中心に大きく変わっていくのでしょう。
ですが、なんだか、仕事がどんどん増えていくようで疲れてしまいませんか?
そんなときいつもお世話になっている港区立産業振興センターさんで、面白い生成AIの使い方の実証実験を行っているという情報提供をいただきました。なんと、生成AIを使ってビジネスパーソンに「癒しの時間」を提供してくれるというのです。
会話するだけで、今の自分に合ったブレンドをAIが提案してくれる
今回、産業振興センター内のキッチンで実証実験を行っていたのは、株式会社フットボール・テクノロジーズ。Webサービス開発企業としてさまざまな企業のプロダクトを開発・運営したり、自社で独自のSNS「ミューゼオ」の運営を行ったりしています。そんな同社が新たにサービスを始めたのが、「Be By Tea」というハーブティーのサブスクサービスです。
企業のオフィスや美容室といった長時間人が集まるスペースに、毎月ハーブティーセットを定期配送してくれるというサービス。水やコーヒーで同様のサービスはありふれていますから、聞いただけでは、わざわざIT企業が手掛ける意味がないビジネスと一瞬思ってしまいます。
ですが、ここに生成AIを一つまみすることで、このサービスはフットボール・テクノロジーズならではのオリジナリティあふれるサービスへと進化しているのです。
ユーザーがまず行うのは、対話型生成AIとの会話です。
QRコードを読み込み、専用の対話ページに遷移したら、どのような事でもいいので生成AI「オリーブ」に悩みを打ち明けてみましょう。

人間の体調に寄り添った回答にも癒される
「今日はちょっと熱っぽいんだ」
「さっき上司に叱られてへこんでいる」
「昨日、夜遅くまで映画を見てて寝不足で」
本当にどんなことでもいいので、今の自分の気持ちや体調を素直にAIに伝えます。AIは優しくこちらの状況を汲み取ってくれた上で、更に細かな質問を返してくれます。3ラリーほど会話を繰り返したら、最終的にAIが、今の自分にとって最適なハーブのブレンドを教えてくれます。

出てきたレシピが気に入ったなら、お気に入りに登録して何度でも再現しよう
ブレンドはグラム単位ではなく、配送されてくるキットについている茶杓で何杯かという単位で教えてくれますので、わざわざ秤を用意する必要もなく、気軽に自分だけのブレンドハーブティーを楽しむことができます。
同じハーブが入っていたとしても、ブレンドの割合によって味わいだけでなく、お茶の色からまるで異なるものに変わってくるため、実証実験の会場に集まっていた参加者同士での飲み比べをしてしまいました。

どちらのお茶もジンジャーベースだがこれだけ色が異なる。
面白いのは、こうして誕生したオリジナルブレンドのハーブティーに対して、AIが名前を付けてくれること。今回私のためにAIが提案してくれたハーブティーには「あったかじんわり、魔法のひととき」という名前が付けられていました。
一緒に行った新人編集部員の一杯は「シャキッとスイッチオンスパイシージンジャー」。
「同じ仕事をしにきているのに、お前はスイッチを切っていたんかい!」
と会話も盛り上がります。
それにしても、ただ葉っぱにお湯を注いだだけなのに、甘さや、酸味、それに香りとこれだけ広がりある味わいなるのは不思議です。
「砂糖などは入っておらず、すべて植物自身がもつ自然の甘さや酸味から生まれたものです。香りを添加するフレーバーティーとは異なり、ハーブを乾かしてそのままの100%天然素材を使用しています」
と、代表取締役 CEOの井本貴明さんが教えてくれました。

今回のシステムを考案した井本さん。
今回、実証実験として用意したものは2025年10月1日から実際にサービスをローンチしたスターターキットだそうです。(ハーブ8種類、カップ付き、110杯分)で月額24,000円、詰め替えが12,000円で、サービスが始まっています。ゆくゆくはオプションとしてハーブの種類を増やしていくことも、考えているそうです。

スターターキットで送られてくるハーブのセット。
数字では測れない、AIが生み出す「癒しの体験」
そもそも、IT開発者が生成AIを扱うとなると、すぐにでも価値を生むようなプロダクトを手掛けようと思うことが一般的かと思います。どうして”Be By Tea”のような目に見えて成果が伝わらないサービスを作ろうと思ったのでしょう。
「普段ハーブティーは飲まれますか?」
と井本さんは逆に尋ねてきました。正直に、そんなに飲まないといったところ、1週間飲み続けると体調改善の効果があると言われていること、女性特有の症状(生理痛など)の緩和効果も期待できることなど、ハーブティーについての情報も織り交ぜながら、次のようなことを語ってくださいました。
「私は元々ハーブティーを良く飲んでいたんです。本業がプログラマーですので、自宅で仕事を始める前に、市販のハーブティーをよく淹れていました。ですがやがて市販のハーブディーだけでは満足できなくなり。ハーブティーって意外とブレンドが決まっちゃっているんですよ。すっきり系とかリラックス系とか。なので、ChatGPTと会話しながら自分オリジナルのブレンドを作っていたんです。これが、意外と面白かったのがサービス化のきっかけになりました」

お茶が抽出されるまで3分ほど。待ち時間も楽しい
仕事の合間に飲むような飲み物は、効率重視のため給湯室でお湯を注ぐだけの場合が多いものです。ですが、”Be By Tea”を実際に作ってオフィスに置いてみると、お互いの診断結果について給湯室で会話が生まれたり、飲み比べを行ったりとコミュニケーションが生まれるようになったそうなのです。
「現在、導入していただいているお客様のなかには、美容室もあります。普段コーヒーしか飲まないお客様に”Be By Tea”が提案したハーブティーを試してもらうことで新しい会話のきっかけにできるのだそうです」
まさしく、毎回毎回、無限の回答を生成できるAIならではの価値ですね。
生成AIを使ったIT商品というと、どうしてもまず数字に定量化して、すぐに結果と結びつくようなプロダクトを開発しようと考えるはずです。人間が数字の羅列を見ただけでは見逃してしまうようなデータの規則性や法則を見つけ洗い出し、それを元にソリューションを提供することこそが、生成AIの最も得意とするところだからです。
ですが、株式会社フットボール・テクノロジーズの”Be By Tea”は、全く逆の発想で、機械には決して定量化できない人間の感情の揺らぎや高ぶりを生み出すことにAIを用いています。
もちろん、今後導入企業が増えることで、利用者の感情を数値化していくということは行われていくのでしょう。実際にコミュニケーションが増えたという声や、ハーブティーを飲むことによって想起された感情をデータ化していくということは新たな価値を生むのかもしれません。
ですが、給湯室で会社の仲間と会話をした、偶然今まで飲んだことのない味と出会えたという体験は、その人個人のものです。どんどん時間の経過が早くなる現代社会。自分だけの体験を大切にできる「余白」の時間をもっと大切にしていきたいものです。

初対面でも、一杯のハーブティーをきっかけに会話が始まる。
【港区立産業振興センター】
住所:東京都港区芝5-36-4 札の辻スクエア9F~11F
時間:9:00~21:30 、日曜9:00~17:00
定休日:年末年始(12月31日、1月1日)、臨時休館あり
アクセス:JR田町駅「三田口」より徒歩4分、都営三田線・浅草線三田駅「A3出口」より徒歩3分

