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【港区のミュージアム】ゴミだって町の一員!隠すのではなく魅せるゴミ集積庫の展示室

2025年3月10日

先日、このような情報をキャッチアップしました。

「田町に、ゴミ集積所のショールームがオープンするらしい」。

ゴミ集積庫って、あの道路の脇とかに置いてあって回収日にゴミをまとめておく、あのゴミ集積庫?展示も何も、金網で囲んだり、防鳥ネットで囲んだりする以外にどんなバリエーションがあるの?

気になったので、取材を申し込んでみました。

鉄工所から生まれた「DUSPON」—ゴミ集積庫の常識を変えた革新の物語

お邪魔したのは都営地下鉄三田駅から歩いて3分くらいのところにある、株式会社ナカノ様の『DUSPON(ダスポン)』ショールーム。

どうやら、この『ダスポン』というのがゴミ集積庫の商品名のようです。

「当社は富山に本社を置く中野鉄工を前身としています。先代の社長が建材メーカーのYKK APさんの元社員だった関係で、ドアのサッシ部分の製造などを下請けする工場としてはじまりました」

お話をしてくださった吉田さん

と、話してくださったのは、同社でダスポンの販促マネージャーをされている吉田雅彦さんです。鉄工所が、どうしてゴミ集積庫の製造を行うことになったのでしょう。

「平成7(1995)年、地元の町内会から相談を受けました。鉄製のゴミステーションは、3~5年に1回、塗装をし直さないと錆びて使えなくなります。その費用が嵩むので、錆びないゴミステーションを作れないかという話でした。オールステンレス製の錆びないゴミステーションを作って看板製品にしようという新プロジェクトが立ち上がったんです」

この時発注されたゴミステーションが、地元で話題を呼んだそうです。「うちの町会にも設置してくれ」と次々に依頼が舞い込み、こんなに需要があるのならば、とゴミ集積庫を製品化することとなりました。これが、約30年前のことだったそうです。

「当初は、本当にただのゴミ集積庫の製造と販売をしていたんです。町の中で見る、カラスとかに荒らされないように金属の蓋のついたやつ。町内会からの発注の他には、地元企業の社員寮や大学などに設置してもらっていました」

最初にナカノで製造したごみ集積庫「NA初号機」 (写真提供:株式会社ナカノ)

発注を受けてから作っていた、それまでと違い、設計からすべて自社開発というのは初めてのプロジェクトでした。ナカノ社内では日夜試行錯誤が繰り返されていたそうです。

そんな、ナカノが開発していたゴミステーションに転機が訪れることになりました。

「初期のダスポンは部材をステンレスに変えただけの上開きのゴミステーションでした。ですが、富山って雪国でしょ。上に雪が積もったり、開閉部分の金具が凍ったりして課題が多かったんです。そこで、もっとよいゴミ集積庫の形はないかということを調べるため、地元のゴミ収集業者さんと一緒に、1週間働かせてもらったんです。600箇所以上ゴミ集積庫を回ってみてわかったのは、蓋式はどうやっても使いにくいということでした

ゴミ収集業者は、蓋を開けたあとに、中に入っているゴミを取り出す必要があります。そのたびに、作業員は腰を曲げ、身を乗り出さなければなりません。1箇所や2箇所回るだけなら気になりませんでしたが、これを何十箇所も巡回するとかなり腰の負担になることが、実際に作業をして実感できたそうです。

「手伝いをしていた若い男性スタッフですら大変という声が出ました。作業員もそうですが、現場を回ってみたことで、ゴミを出すだけでもかなり大変そうにしている高齢者や女性たちの姿もたくさん見ました。男性なら気にならない、蓋の高さまでゴミ袋を持ち上げる作業がそもそも負担なんですね。だから、ゴミ集積庫には蓋がいるという発想を変えることにしたんです」

こうして2年半の月日をかけて誕生したのが、蓋を横スライド式の扉にしたゴミ集積所『スライドダスポン』でした。

ドアの色と本体カラーの組み合わせで自由にカスタマイズできるのも人気

拘ったのは“扉の開閉の軽さ”“見た目”です。

「ほとんど力を入れないでもすっと開くということにはかなり拘って設計をしました。また、見た目にも拘ったんです。ゴミ捨て場というとどうしても人目から隠すものというイメージがありますよね。新しい建物を建てるときも、いかにゴミ集積庫を隠すかに設計士さんは注力されています。でも、隠す必要がないくらいおしゃれなら、設計の自由度も上がるじゃないですか

集合住宅を見ているとゴミ集積所を隠すために、わざわざ袖塀を拵えて目隠ししている設計があります。

スライドダスポンなら袖壁不要 (写真提供:株式会社ナカノ)

もし見た目にゴミ捨て場と分からない形にできるようなら、設計士さんの苦労はなくなるでしょう。こうして、市場に導入されたダスポンは、好評をもって受け入れられていきました。特に、一見するとゴミ集積庫と分からないデザインが受け、住宅メーカーや、新たに集合住宅を計画している施主、商社などに株式会社ナカノが認知されるようになっていったそうです。ついに2018年にはグッドデザイン賞を受賞するまでの商品になりました。

コロナ禍が生んだ新たな需要 。「DUSPON」が広げた可能性と意外な活用法

しかし、それはあくまで富山県内の町内会や、住宅関係者の間でのことです。ダスポンにとって大きな転機となったのは、2019年の新型コロナウイルスの流行でした。

「スライドダスポンはECサイトでも販売をしていたのですが、コロナ禍をきっかけとして急激に売れ始めたんです。しかも、北は北海道から南は沖縄まで全国各地にです

調べてみたところ売り上げの中心は関東で、特に千葉・埼玉が6割を占めていました。東京にある商社やエクステリア関連の事業者からも問い合わせも増え、実際に触れてみたいという声も上がってきたため、都内にダスポンに触れてもらえるショールームを用意しようということになったそうです。

「スライドダスポンは、大規模集合住宅用のサイズと、中規模集合住宅向けのサイズ、そして家庭にも置ける小型のサイズの3サイズを用意していました。小型のものは、ゴミ収集日がくるまでの家庭ゴミの一時保管所を想定して販売していました。コロナで在宅ワークが増えたことから、家庭ゴミが増えたのかなと思っていたのですが、どうやらそれだけではなさそうでした

ダスポンを個人宅で購入した人について調べてみたところ、吉田さんらの想定を超える使い方をされている方が多数いらっしゃいました。

ーデニング用の器具を入れるための物置として庭に設置している人大量に収納できることを活かした置き配ボックスとして使用している人、緊急時の防災グッズを入れておくためのスペースとして利用している人

意外なところでは、消防署で使用する機材の収納スペースとして採用されている例もあったそうです。

目を背けたいゴミ箱に目を向けさせるため拘ったデザインが、人々の創意工夫を刺激して予想外の需要を生み出していたのです。

「それまで、当社としてはダスポンの販売先をゴミ集積庫を必要とされる自治体やエクステリア関連の方々ばかり想定していました。ですが、お客様が全く新しい使い方を提示してくださった。そこで、現在は戸建てを建築されるハウスメーカー様にも営業をかけ始めています。小型のスライドダスポン1台当たりの単価は、中型、大型に比べると低いです。ですが、戸建ては集合住宅より数が多いので、大きなビジネスになるのではと考えています。当社としては、いずれダスポンシリーズの売上が会社全体の4割を占められるように育てたいですね」

個人住宅から地域社会まで支える新たなゴミ集積庫の形

現在、ショールームを訪れる人は、新しく家を建てる施主さんや、施主さんに頼まれたハウスメーカーの方が多いそう。

「多くの方が商品カタログやネットなどで写真を見て、採用したいと思ってご来場くださいます。見た目だけで性能が伴っていないのではと不安に思われているようですので、こうして実際に触ってもらっているんです」

個人のお客様に向けての営業が増えているということは、今はかつてのような町内会向けの販売は下火なんでしょうか。と聞いてみると、

「実は、そんなこともないんです」

と、吉田さんは最近設置した実例をいくつか教えてくださいました。

まず、東京都内の某区でダスポンを採用してもらったそう。

「駅前でボランティア活動としてゴミ拾い活動などを行ってくださっているじゃないですか。ボランティアで集めたゴミを、回収日までどこに保管するのかという問題があるんです。ボランティア団体はゴミ捨て場を持っていませんからね。そんな時、スライドダスポンでしたら大容量を収納できるし、場所をそれほど取らない。おまけに町の景観を壊さないので最適と採用してもらいました」

また、自治体によっては道路の幅や条例の都合で、ゴミの集積庫を設置できないエリアがあります。そういったエリアでは、ゴミ収集日になると自宅の前にゴミ箱を設置してゴミを回収してもらっていますが、ゴミ箱を家の前に出すのがみっともないと感じる住民や、ゴミを不審者に漁られるのではないかという不安が恒常的に発生しているのだそう。こういったエリアに、ゴミ集積庫には見えず、ゴミ回収業者にとっても回収のしやすいスライドダスポンを設置するという取組を行ってくれている地域ができているそうです。

たしかに、高級住宅街で知られる世田谷区の一部のエリアを歩いていると、家の前にゴミ箱を出している豪邸をよく見ます。そのような事情があったとは知りませんでした。

「一般家庭にもスライドダスポンが採用されるようになったことで、どんどん新しい需要が出てきています。今年からは、ゴミ箱需要以外の掘り下げと、お客さまから寄せられた声をもとに、全商品のモデルチェンジを計画しています。オプションで棚を設置できるアタッチメントを販売したり、デザイン的に甘かったリベット部分を見えないようにしたり、スライドの溝部分を隠すなどの小さな改良を実施中です」

 使いやすさとセキュリティにもこだわる進化するゴミ集積庫

最後に、現在展示されているスライドダスポンに実際に触らせてもらいました。設計の方が拘ったというスライドドアは、初動は全く力が要らずすっと動き出します。それでいて、全開になる前にエアクッションでもあるかの如く、ふわっとブレーキがかかり、けっしてガンっと音をたててぶつかることはありません。

見た目よりも奥行があるのか、一番小さなスライドダスポンであっても大人一人がしゃがんで入れるくらいの容量は余裕であるため、ゴミが入りきらないということもなさそうです。

見た目に反して大容量。密閉性が高いため、臭いが外に漏れにくい(写真提供:株式会社ナカノ)

「ちゃんと考えて設計しているので、わざと崩れるように積まない限りは、決して入れたゴミが前に倒れて溢れてくるようなこともないんですよ」

と吉田さん。

さらに、屋上には庭を再現したかのようなスペースが用意されており、スライドダスポンが展示されていました。

「ダスポンに触ってもらった後、ここで商談をすすめるんです」と吉田さん

1台には、扉の側面にロックボタンまで付いています!

「ゴミはプライベートな情報の塊ですので、鍵がかけられるのは必須だと思っています。この機種のロックは電池式です。基本的にはカードキーで開閉することを想定しているのですが、カードキーを忘れた場合は暗証番号で開けられます。暗証番号を忘れた場合には、物理的な鍵も用意していますよ。また、カードキー部分は電池で稼働しているのですが、電池が切れてしまうこともあります。その場合は、四角い9V電池を外から接続することで緊急解錠することも可能になっているんです」

基本的にはカードキー開閉を前提としているが複数の開錠状況に対応する

さらに吉田さんは、ゴミ集積庫の面白い話を教えてくれました。鍵のかからないゴミ集積庫の悩みとして、住民以外の人が勝手にゴミを捨てていくという問題があります。その問題の解消のため、神奈川県の大和市はマイナンバー交付よりもはるか前に、住民一人一人にゴミの集積庫のロックナンバーを交付しているのだそうです。先進的な取り組みだと思いますが、老人などが番号を忘れちゃったときは、ゴミが出せなくなってしまいますよね。

「ゴミ捨て場と鍵というのは、これから付きまとってくる問題です。当社は、販社であると同時にメーカーですので、解決しがいがある課題だと考えております。鍵付きのスライドダスポンには、これまでと違う形での販路もあることを最近考えているんです」

吉田さんが一例として挙げてくださったのが、病院です。

病院からは、劇薬や注射針などの決して外に出してはいけないゴミが発生します。これらを、一時保管するための場所として、鍵がかけられるしっかりとしたゴミ箱は必要になります。そこに、ダスポンは最適ではないのかと考えているそうです。ふぐ料亭の厨房にある、鍵付きのポリバケツを思い出します。

東京都心部であっても、高層住宅の裏に未だに昭和をそのまま切り取ったような路地が残っており、ネットをかけただけのようなゴミ集積所があります。ゴミの日などはカラスがネットをはがしており路上にゴミが散らばっている様子を見たことがある人も多いのではないでしょうか。

都心部でもそれですから、ゴミ集積所の整備が間に合っていない地域というのは、全国に結構あるはずです。そういった地域でナカノさんのスライドダスポンを見かけるようになる日は、そう遠くないのかもしれません。

ちなみに、スライドダスポンをご自宅に設置してみたいという一般の方であってもショールームを訪れて、実機に触ることは可能だそうです。その際は、下記電話番号から予約をしてください!

【株式会社ナカノ ダスポンショールーム】

住所: 東京都港区芝5丁目19-6-1201
時間:訪問前に要問合せ(03-6809-5596)
アクセス:都営三田線三田駅「A3」出口から徒歩3分

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