【港区の老舗】移り行く街の中でも、息づく想いは不変――信頼で人と人をつなぐ「青山三河屋川島商店」
東京メトロ各線の「表参道駅」より、徒歩0分という好立地。昼夜問わず人々が行きかう都心の中央に、きれいな外観ながら、古い歴史を持つ酒屋さんがあります。
お店の看板には、「創業 明治三十四年 SINCE 1901」の文字。とはいえ、老舗にありがちな、敷居の高さのようなものは感じさせません。時折、常連客の方がふらりと立ち寄られて、「焼酎を買いたくて…」など、店主さんやスタッフさんと気さくに話をされています。
お店の軒先には、新酒が入ったことを知らせる「杉玉」がぶら下がっています。
自動販売機横のボードには、びっしりとお酒やイベントの告知情報が書き込まれ、目を惹きます。「青山三河屋川島商店」代表取締役にして、青山表参道商店会広報部長を務められている川島太さんに、お店の歴史、商店会と街の人々のつながりなどを伺いました。
街の変化は歓迎すべき。だけど変わらないものにも価値がある
※店内は特別に許可を得て撮影しております
長い歴史の中で起きた、青山の街の変化
1901年の創業以来、120年以上この青山の地に店舗を構えてきた青山三河屋川島商店さま。お店の歴史を伺うと、戦時中には空襲によって青山は90%焼失し、お店にも被害が出たのだとか。
「交差点は、遺体の山だったといいます。有名な石灯篭には、今もなお山の手大空襲の痕跡が残っています。うちの店の前に、酒樽に水を張って置いておいたようですが、火と熱風により全焼してしまいました」
しかし、そこからの復興は、目を見張るスピードで行われました。
「当時私の祖母は、焼けてすぐに建物を立て直しました。いち早く水道も引いて、酒類を販売する上で重要なインフラを整えたんです」
非常にパワフルで、商才の豊かな方だったのですね。
「ちなみに、私の父は、戦争とオリンピックの2つが、青山にとって歴史的な出来事だったと捉えています。戦前、戦後、オリンピック前と、どの時期から店を構えているのか、店名とセットで覚えていました」
時代とともに、変わりゆく街を目の当たりにしてきた中で、何を感じていらっしゃるのでしょうか。
「街は大きな出来事がある度に変わっていきます。それは青山も同様で、イノベーションとともに変わっていきます。それは歓迎すべき変化なのでしょう。一方で、街の人々の中に変わらないものも確かにあって、そこに価値があると思っています」
商店会の役割はプレゼンスの確立
では、変わらないものとして、どんなものが挙げられるのでしょう?
「この街の人々には、地元愛、地元への想いのようなものが強いんです。商店会のメンバーは、みな地元の青南小学校の出身者が多いので、青南小学校の学校行事や子供向けの催しなどには、進んで協力してくれるんですよ」
そういえば、竹内会長を取材した際、青南小学校の児童が清掃活動に参加してくれる時もある、というお話も伺いました。
「街の姿や形が変わっても、伝統行事や歴史、文化を大切にしようという想いは、商店会や街の人々の中に息づいています」
青山表参道商店会では、広報活動を担当していらっしゃる川島さん。盆踊りや節分など、さまざまな商店会の活動も、率先して行っていらっしゃる立場です。
「商店会の役割とは何かを突き詰めると、その存在を地元に知らせ、意識を持ってもらうことだと思うんです。いわば、プレゼンスの確立ですね。商店会の存在を地元の人にわかってもらうための活動を日々行っています」
「青山三河屋川島商店」のこだわり
お店のコンセプトは、「和酒のセレクトショップ」。日本酒をはじめ、日本産(国産)のウイスキーやワイン、焼酎などが豊富に揃っています。
「日本酒は、社長や杜氏(とうじ)さんを知っているところのものをお店に置いていますね。酒屋と酒蔵は家同士の付き合いで、信頼が第一です。何かあったときに、ダイレクトに話ができるところがいいんです。ほかのお酒も、試飲して自分でおいしいと思うものを揃えています」
ラベルにもぜひ注目!
和酒だけでなく、輸入品も扱っていらっしゃる店内。無骨な印象を持つ日本酒の瓶もあれば、SNS映えしそうなかわいらしいラベルもあり、商品のジャンルは非常に多岐にわたっています。
「今は、デザイナーさんの手が入ったこともあって、いろいろなラベルやデザインが揃っています。蔵元さん自らデザインをされた、ユニークなラベルもありますよ」
各瓶をよくよく見ると、傍に味や飲み方について、おすすめするコメントが付いているものもあります。イラスト付きだったり、カラーで強調されていたり、その仕上がりはさまざまです。
「おすすめコメントは、私が自分で書いたものもありますし、文章を私が考えて、スタッフに書いてもらったものもあります。皆それぞれのセンスで書いているので、出来上がりはいろいろなんです。その方が手作りらしさがあるでしょう?」
スタッフさんの人柄が伝わる、あたたかみがあるコメントは、確かに見ていてほっこりします。お店を訪れた際は、ぜひ手書きのコメントにも注目されてみてください。
『青山「笑う酒」の会』は、蔵元の負担にならないことが大切
全国から蔵元をお招きして、月に1回程度行われている大好評イベント『青山「笑う酒」の会』。講師の蔵元さんは全国各地からお越しになりますが、彼らの都合に合わせて決めるのが大原則だそうです。
その決め手は、大きく2点ありました。1つは、講師の方のスケジュールです。
「まずは蔵元さんが東京に来るタイミングに合わせています。どうせ東京のお店で飲むのなら、うちのお店で飲みながら、平日の夜に2時間くらい喋ってくれない?とお願いしています(笑)」
2つ目のポイントは、蔵元が販売したいお酒(新酒の場合も)が揃っているか。それもやはり、蔵元さんの意志や考えを尊重しています。
「皆さん、地元でお酒の即売会などのイベントをやっているので、喋り慣れている方ばかりです。試飲で使う日本酒もうちの店で買い取って、蔵元さんに負担をかけないように運営しています」
蔵元さんはその場でお酒の販売を行うことも多く、話術が巧みな方も多いのですね。しかし、青山三河屋川島商店さんの場合、即売までは行っていません。
「うちはいわば、場の提供をしているだけです。紹介しているお酒の即売会もしていないですし、買いたくなった参加者の方には、他のお店で購入してもいいと伝えています。独自のオンラインショップがある蔵元さんの場合、そうしたWEBサイトで買ってもOKです」
即売会がなくても、蔵元さんが来て話をしてくださるのは、何と言っても信頼の証です。
「この店だと居心地がいいとかやりやすいとか、相性もあるかもしれませんね」
そうなってくると、全国の蔵元さんのスケジュールを確認し、会の開催を月1回程度に調整するのが大変そうです。
「3~4カ月前から、来れる方から講師の方を決めています」
「和酒のセレクトショップ」は心強いお酒のパートナー
「これしかないんだけど…」と仰いながらも、現在では発行されていない、川島さん発行の冊子『笑う酒』のサンプルをいくつか見せていただきました。
青山の昔話、お酒にまつわるエピソード(お酒のウソ・ホントなど)、お酒の商品情報などがびっしりと書き込まれていて、地元とお酒への愛が伝わってきます。
昔話のコーナーは書体も凝っていて、いかにも歴史的な印象でした。これを毎月、おひとりで作られていうというから驚きです。
「文章を書くのが大変でした」
人々は昔から、仕事の後や休日に疲れた体をほっと癒す、お酒のひとときを大切にしてきました。青山三河屋川島商店さんは、気分や味の好み、料理にぴったりの1本をアドバイスしてくれる、お酒のパートナー的なお店です。
青山の地を愛し、街の人々からも愛されている同店は、古くからこの地に根付き、街や人の移り変わりを見守ってこられました。きっとこれからも、行き交う人々にとって、欠かせない存在であり続けるのでしょう。
【青山三河屋川島商店】
住所:東京都港区北青山3-10-9
営業時間:土、平日 9:00~20:00(土曜のみ~19:00)
定休日:日、祝日(その他、正月/お盆休み有)
アクセス:地下鉄各線表参道駅「B2出口」より徒歩0分